フレグランス
無気力で怠惰な生活の中で始まる恋の物語
1.メーカー名:PAPURICA
2.ジャンル:マルチED恋愛ADV
3.ストーリー完成度:B
4.H度:C
5.オススメ度:D
6.攻略難易度:B
7.その他:中途半端なシステムが鼻につくったら!
(ストーリー)
遠野原礼一(とおのはら・れいいち)は高校3年生。
父は芦利丘(あしかがおか)学園の元理事長で、再婚した途端に死んでしまい、現在は義母が理事長をしている。
礼一は、亡き父への反発から、その死後、家を出て一人暮らしをしている。
大学も推薦入学が決まっているため、無気力な生活態度の礼一だったが…。
このゲームは、若干だがキャラクター相関があるので、その系列を主に見ていくとしよう。
(草角篭シナリオ)評価:B
幼なじみの草角篭(くさかど・かごめ)は、礼一の母が死んだ日、母の頼みで礼一を外に連れ出していた。
そのせいで母の死に目に会えなかった礼一に対する申し訳なさを感じ続けていた篭は、礼一の母が品種改良して作った黄色い勿忘草(わすれなぐさ)を咲かせようと努力し、遂に咲かせることに成功する。
そして、夕貴の策略によってギクシャクした礼一と篭は、反省した夕貴自身の尽力によって結ばれたのだった。
ところが、今度は篭の父の会社が倒産し、篭が北海道に引っ越すことに…。
幼なじみ系としては割とドタバタした印象を受けるシナリオだ。
これは、主に設定を盛り込みすぎたことから生じている。
母の思い出の黄色い勿忘草、母の死に立ち会わせなかったという篭の悔い、親友夕貴の横恋慕、父の会社の倒産など、掘り下げれば2つくらいで物語が成立する。
Hして終わりではなく、その後も父の会社の存続と自分の気持ちの間で揺れる篭を描くことで深みを出……そうとして失敗している。
これは、篭が礼一に自分の状況を説明することなく自己判断で行動し、更に礼一もそれに対して特にリアクションを起こしていないせいだ。
要するに篭が1人で騒いでいたことが事後報告されるだけで、それらの事情によるすったもんだが足りないのだ。
緊迫感がないと言い換えてもいいだろう。
後述することになるが、これは礼一がどんな時にも冷静かつ頑固に普段の生活パターンを守っていることに起因している。
篭と礼一の仲を裂こうとした夕貴が、礼一のことも好きだったことに気付いた後で2人の仲を取り持とうと画策するなど、結構フォローも行き届いているだけに、礼一の態度にはイライラする。
父の会社を犠牲にしてまで礼一との恋を選んだ篭に対して、礼一が情けなさ過ぎるのだ。
いかに幼なじみとはいえ、黄色い勿忘草から作ったフレグランスウォーターというタイトルに使われているキーワードがなければ、メインシナリオの座はあやしかっただろう。
(藍原夕貴シナリオ)評価:C
篭の親友である夕貴は、篭に対する恋心から、篭と礼一の仲を裂くべく礼一に接近してきた。
篭を騙すために礼一にベタベタする夕貴。
だが、篭の目の前で礼一とキスして見せた後、夕貴は自分が本当に礼一のことを好きだと気付いたのだった。
そしてまた礼一も…。
篭シナリオの裏側を見せるシナリオだ。
そもそも夕貴は誰かに側にいてほしいというタイプだ。
ただ、引っ込み思案なため、相手の方から近寄ってくれないと仲良くなれない。
そのため、親友の篭と一緒にいる礼一は話しやすい相手であり、しかも優しく接してくれるから、恋心が発生しやすい相手だったのだ。
礼一の方が夕貴に対して恋愛感情を持ってしまった以上、夕貴は半ばそれに引きずられるように礼一に惹かれていくのはむしろ当然と言える。
そういうこともあって、いい悪いはともかく大変納得できるシナリオだった。
また、夕貴の行動の裏にそういう事情があることが分かる篭が、礼一が夕貴を選んだのだからと自分は許嫁との結婚を決意するのも分かりやすい。
「好きになれそうかな。ちょっと礼一に似てるかも」という篭の許嫁評は、礼一への想いが残っていることの表れだ。
篭は、一旦フラレた形になった以上、父の会社を犠牲にしてまで許嫁を蹴る理由がなかったのだ。
篭が許嫁と結婚するシナリオがこれだけなのは、それを象徴している。
(木下真利香シナリオ)評価:B
木下財閥のお嬢様:真利香は、合唱部の中心的存在であり、金持ち揃いの学園の中でも抜きん出た存在だった。
だが、普段から雑用としてこき使っている浩二郎に告白してフラレたことから事態はおかしな方向へと流れ出して…。
これまで何でも自分の思うとおりになってきたお嬢様にとって、浩二郎への失恋は初めての挫折だった。
また、この後浩二郎が深雪先生の不倫相手の教師を殴って停学になってしまうのだが、それは浩二郎が深雪を好きなことを知っている山城(真利香の取り巻きの1人)が真利香追い落としを画策してのことだというのが面白い。
ほかのシナリオでは、浩二郎がなぜ教師を殴ったのかが分からないのだが、実は山城が浩二郎に深雪先生の不倫のことを教えたためなのだ。
要するに山城は、真利香と近しくなっておけば将来にプラスになると考えて取り巻きをやっているのであり、追い落とせると判断するや実行に移すなど、なかなかドロドロした社会の縮図を見せている。
真利香のソロパートの時だけ半音ずらしてみたり、深雪の不倫を利用して浩二郎を停学に追い込むなど、さりげなく真利香を追い詰めていくのもいい。
それに対して礼一が珍しく能動的に関わり、真利香を救っているため、ストーリーがちゃんと流れている。
鷹羽は、このシナリオが一番良かったと思う。
ただ、山城の策略はうち破ったけれど、真利香にはまだまだ試練が待っているはずなので、そういうところを全てすっ飛ばしてエピローグっていうのはちょっとないんでないかい?
それと、EDロールでは『真理香』になってたけど、なぜ?
(平野深雪シナリオ)評価:D
美術部顧問の深雪先生が同僚の教師と不倫していたことを知った礼一。
更に、真利香の告白を蹴った浩二郎は、自分が好きなのは深雪だと言う。
だが、礼一はなりゆきで深雪を抱いてしまった。
深雪に対する想いが“寂しい者同士のなれあい”なのかどうかに悩む礼一だが…。
流されまくっているうちにハッピーエンドを迎えてしまうというのはどうだろうか?
離れていった深雪の後を追うこと、或いは連絡を取ることは簡単にできるだろうし、事実浩二郎はあっさりと深雪との仲を取り持ってくれているのだから、礼一の悩みは単に深雪の気持ちが分かっていなかっただけのものではなかろうか。
するってぇと、やっぱその後もちょっとしたことで別れちゃうような気もするなぁ。
このシナリオでは、最終的に浩二郎が真利香とくっついちゃうというのが若干意外。
ま、一度フッた相手となんだかんだでくっついちゃうというのはアリだろうから、それは文句なし。
(高梨小町シナリオ)評価:C
美術部の次期部長小町は、陸上部期待のランナーだったが、交通事故で足を折って再起不能になったため、礼一に憧れて美術部に入部してきた。
そしてその実力から次期部長に指名されたのだが、礼一に熱烈アタックをかけているために美術部で孤立していた。
そんなことは露知らず、礼一は部長になる小町に箔を付けるべく絵画展に出展させることにする。
小町は、礼一がモデルになることを条件にするが…。
元彼のストーカー登場。
小町のキャラクターからして、以前に彼氏がいたなら当然経験済みだろうと思ったが、予想を裏切らない展開は○。
つーか、あれで「処女です」とか言われたら、きっとゲームを放り出していただろう。
「私…初めてじゃありませんから、遠慮しないで…」という軽い言い方もちょいお気に入り。
でも、真冬に学校で暖房もつけずにこっそりヌード描くのはどうかな?
描いてる方も裸ってのは、ますますやばそう。
風邪ひくよ? はっきり言って。
鷹羽的には、光岡の方がヒロイン向きだと思うので、彼女が単なる脇役で終わったことに若干の不満があった。
(遠野原桐子シナリオ)評価:E
継母の連れ子である桐子は、何かというと礼一にべったりとくっついていた。
ある日、実家で夕食を食べることになった礼一は、父に対するわだかまりから美智恵を傷つける発言をしてしまう。
さすがに怒った桐子を見て、自分の気持ちを整理するためにも実家に戻ることを決意する礼一。
そして、桐子とこっそり結ばれてしまうのだった。
しまった、またオチまで書いちゃった。
とりあえず、このシナリオでは、継母美智恵がとってもいい人だということが分かる。
礼一の身勝手のために苦しい立場に立たされていながら、それでも礼一に優しく接しているのは凄い。
…が、その分礼一が情けなさ倍増なのは良くないかも。
どうでもいいけど、桐子は妹として礼一を好きだったのか、妹扱いされる恋人づきあいを目指したのか、はっきりしなさい。
(森谷由香里シナリオ)評価:D
お隣さんの由香里は、OLという表の顔の下に小説家という裏の顔も持っているが、それを知っているのは礼一だけ。
元がゴーストライター出身の由香里は、編集者からの評価はあまり高くなく、好きなものが書けないという悩みを抱えていた。
小説の売れ行きがさほどでないことから、ますます編集者の評価は辛い。
ある日、由香里は会社をリストラされてしまい、小説家としても次に出す小説の売上次第ではゴーストライターに逆戻りということになってしまい…。
人生なめてます。
礼一と惹かれあった理由も説得力に欠けるし、ラストでいきなり由香里はベストセラー作家になるわ、礼一は有名絵描きになるわでもう大馬鹿。
でも桐子よりはマシかな。
“書きたいモノを書かせてもらえない”“なおかつ編集者の言う小説を書いても売れない”という苦しみを、礼一と分かち合えるとか言うなら、礼一の存在意義はあるのだけど、礼一からの働きかけというものはあまり感じられない。
せっかく由香里の正体を知らない桐子が由香里の小説のファンだという設定があるのだから、もっとそれを大々的に使うべきだったのではないだろうか。
桐子から由香里の小説の傾向を聞いて終わりでは、桐子が絡む意味がないように思う。
むしろ、さっさと由香里とくっついちゃって、2人で桐子に正体を隠すというようなドタバタ劇でも演じていた方が楽しかったような気がする。
え〜っと、このゲームには色々問題があるのだけれど、最大の問題は、礼一の性格にあると言っていいだろう。
とにかく無気力で目の前にいる女の子になし崩し的に掘れてしまう主体性のなさ。
はっきり言って篭と真利香以外のシナリオでは、礼一の主体性などというものは存在しない。
篭シナリオにしても、篭の不可解な行動にオロオロしているだけだしなぁ。
美術部の部長だったとはいえ、ゲーム中で絵を描くということはほとんどしていないし、能動的な行動があまりない。
毎日家に帰った後も、ほとんどの日はボーっとテレビを見て「そろそろ寝るか」って寝てしまうだけ。
毎朝「寒っ」つって学校に行くだけだし、ワンパターン極まりない。
とんでもないのは、何かに悩んでいる最中でも、ほとんどこのパターンなことだ。
数秒前まで悩んでいたくせに「さて、寝るか」じゃねーだろう、おい!
そして、一人暮らしをしていること自体が問題の塊だ。
父への反発から一人暮らしするのはいいが、バイトしてる様子もないから、その生活費は全額実家(美智恵)に出してもらっていることは想像に難くない。
実際、学校でも先生から「父親の遺産を食いつぶしてばかりいないで云々」という小言を貰っている。
実家から学校に歩いていける距離だというのに、駅まで徒歩2分、2DK・バス・トイレ付き家賃5万3千円のアパートに住むか?
しかも、篭シナリオでは、ほぼ毎日1回はキャット・ニップに行って800円前後の定食を食べているのだ!
ふざけんな! 甘えるのもいい加減にしろ!
…というわけで、主人公が違う人間ならもっと素直に楽しめたのかもしれないのだけど…。
大変意外なことに、礼一はモテる。
なんと、美術部の女子部員(女子部員しかいないようだが)全員が礼一狙いで入部していたという…。
みんな目が腐ってます。
(総評)
内容的にも問題が多いのだけど、システムその他も相当なもんだね。
何度フル画面表示に設定しても、終了・起動するたびにウインドウ表示に戻るシステム、ほんのちょっとでも表示したことがあるシーンならシーンの切れ目まですっ飛ばし続ける既読スキップ、毎回同じ内容の文章でも前日ラストのモノローグが違えば飛ばせない朝のモノローグ、現在表示されている文章の1行前はなぜか読めない既読文章バックなど、使えない機能が山盛りだ。
更に、BGMもあまり良くない。
起動するといきなりサスペンスっぽい曲が流れて「一人暮らしをしよう…」とモノローグが始まる。
何のことはない、『夕焼け』という曲名のフツーのBGMだったのだ。
どうしてこんなに事件が起こりそうな曲にすんのかね?
鷹羽がBGMに文句つけるなんて滅多にないことだよ。
今回は絵柄でゲームを選んでみたのだけど、反省してます。
(鷹羽飛鳥)