瞳裸V〜傀儡哀〜

 漂泊の放浪者は、100年の時を経て…

1.メーカー名:クロスネット
2.ジャンル:シミュレーション
3.ストーリー完成度:C
4.H度:B
5.攻略難易度:D
6.オススメ度:C
7.その他:1たす2は3となったのか?

(ストーリー)
 わが名はミスランディア。
 哲学者にして、古今最高の錬金術師のハーフエルフである。
 かつて我が叡智を結集して作り出した最高傑作「瞳裸」と、それを瞳にもつホムンクルスのアリアを失い、放浪者となって100年余りが経つ。
 しかし近年になって瞳裸の正しい制造方法が判り、放浪を止め、腰を据えることにした。
 まずは金と助手がいる。
 金は、不本意ではあるが人々の欲を満たす道具を作って稼ぐことにしよう。
 助手は、二体のホムンクルスを造って手伝わせればいい。
 瞳裸を造るために必要な条件を満たす時まであと30日。
 彼女達の技術力の向上と、必要なアイテムを用意することで、アリアと瞳裸の復活は成される。
 ところで最近、近くの町の様子が騒がしい。
 どうやら疫病が流行っているらしい。製造に影響が出なければいいのだが…。


 人気作(だよね、たぶん)「瞳裸」シリーズ3作目となる今回は、一作目をベースに二作目の要素を加えたシミュレーションだ。
 アイテムの開発と改良によって一日毎に金を稼ぎ、その金でアイテムのための材料を買って…という行程を繰り返して、30日後のエンディングに必要な条件を満たす。
 アイテムは開発・改良することで、二人の助手・レアとリニアのどちらかが実験(性能チェック?)をするという形でHシーンに入る。
 システム的には選択をしていくだけだし、上がるパラメータも一つしかないので、シリーズ中一番簡単な出来となっている。
 連作になると、システム的に難しく複雑になっていくというパターンになるが、それに反してより簡単に遊べる様にしたのは、何作目からでも遊べる様にという配慮だろう。
 もちろん、単にHCGを見せるだけに集束することはなく、ベストエンドのためにはお金と材料のバランスに頭を捻る必要が生じるため、なかなか手応えもある。
 またゲームが進むと、レアとリニアのエンディングに繋がる選択肢も出てくるので、見た目以上に色々と盛り込まれているのがわかってくる。

 シナリオは、「瞳裸」を完成させるための日々の中で、主人公のミスランディアとレア・リニアとの生活が描かれる。
 哲学者たらんとする彼がレアとリニアに振り回されていたり、彼女達はアリア復活のための礎に過ぎないのではないかと思い悩んだりと、瞳裸完成とアリアへの期待と不安を表現しようとしている。
 そして疫病への不安。
 ゲーム内の日数は、瞳裸を造る条件が満たされるまでの期間だが、それに成功すると疫病が蔓延するまでの期間となる。
 彼女達が感染したら、というミスランディアの不安は、プレイヤーのバッドエンドへの不安と同義なので、我々の感情移入を強く煽るようになっている。
 Hシーンは、レアとリニアがアイテムを使った自らの痴態を語る。
 これは前作の「瞳裸皇」と同じ手法で、この時は体験告白記だったが、今回は年上設定のレアには自分の体の反応に対する恥じらいを語らせ、年下設定のリニアはアイテムに対する興味をメインに語らせて、よりリアルタイムな表現ないい感じの表現となった。
 HCGも、ゲームの目的上ノーマルHは皆無で、ほぼアイテムによるプレイのみでまとめられている。
 グラフィック的には控えめな感じだが、利乳剤・処女再生薬・猫耳等、相変わらずマニアック
 多少の制限はあるが、一つのアイテムにつきレアとリニアの二通りが用意されているので、好きな方を楽しめる。
 幼児体型のリニアの方が、よりアブノーマル色を感じるのは気のせいか? 

 
さて、連作となると問題も多くなる。
 まず、システム。
 このゲームのポイントは、いかにお金を稼ぎ、レアとリニアの技術をアップさせるかにある。
 しかしアイテムを開発したら+2、改良したら+1という単純なもののため、ベストエンディングを見るための手順が固定され、面白みに欠ける。
 開発するアイテムの数はエンディングには関係なく、必要以上に作ると逆にベストエンドが見られなくなってしまう。
 つまりHCGとエンディングのどちらかを優先させることになり、残った方は作業になる。
 どうせならエンディングは同じでも、アイテムをコンプリートしたらおまけCGがつく等、簡単な中にも工夫をして欲しかったものだ。
 ちなみにアイテムのコンプリートとエンディング到達は、どうやっても同時に達成できない。

 次に、シナリオ。
 ゲームの性質のせいもあるが、シナリオ面が薄いように感じられる。
 話の軸は、瞳裸を瞳に持つアリアの復活。
 しかし、「一般人のように余生を楽しむことにするか」というミスランディアの“孤高の哲学者・錬金術師”からのポリシー改革が、彼とレア・リニアの間にある“造った者、造られた者”という関係を崩してしまったため、前二作から引き継がれているはずの“ヒロインの持つ自己の存在意義への悩み”というテーマを希薄にさせた。
 「瞳裸」では皇帝を篭絡するための道具として造られたアリアが、教育を受けていくに連れ自分の存在に悩み、「瞳裸皇」では主人公の国を挟んだ二大国に、自国の利益を得るための道具として送り込まれたベルシエルとアリエルの二人が自分の在り様について悩んでいた。
 どちらもその描写がゲーム全体にちりばめられていたが、今作では「アリアお姉ちゃんが目覚めたら私達必要なくなっちゃうの?」というリニアの言葉と、「そんなことはない、お前達も今まで通りアリアと一緒に暮らせばよいのだ」と答えるミスランディアのやりとりだけで終っている。
 後は、疫病に対する恐れが書かれているだけ。
 気楽な余生を過ごしたいから、深く考える必要もなくなったのだろうか? 

 更に、アリアとレア・リニアとのやりとりは僅か一回きりしかなく、覚醒してからたった五日でエンディングでは、お互いの意思の疎通もあったものではない。
 二人の能力はアリアに移植されている様だが、自我とは別物。
 喧嘩だってあるだろうし、事件だって起こるだろう。
 何より、疫病を防ぐため街の出入りが制限されているにもかかわらず、いつのまにか村に見知らぬ女の子が一人増えている不思議さに対して、何の追求も無いのはおかしくはないか?
 もっと、三人の内面や周囲の変化を掘り下げた方がよかったと思うのだが…。

 そして一番の問題は、アリアを神聖視しすぎていること
 彼女はミスランディアの中で一番ウェイトを占めている。
 それは、ゲーム中に繰り返し出てくる彼女との生活の思い出の数々からよく判る。
 しかしいざアリアが復活してみると、ノーマルHを一回しただけで終り
 プレイヤーは、お粗末なアリアの存在に肩すかしを食らってしまう。
 実際の話で、欲しいものを手に入れるまでは努力を惜しまないのに、いざ手に入れてみると何もしない、ということがよくあるが、まさにそれと同じ。
 ゲーム内のミスランディアはそれで満足なのだろうが、プレイヤーはそうはいかない。
 ゲームのパッケージにどーんと描き、思い出を見せ、アリアという少女をプレイヤーに意識させておきながら、30日がんばった褒美がノーマルH一回。
 これで納得しろと言う方が無理な話だ。
 一作目をプレイした人は実験体だった彼女を見ているだけに、今回も期待していたはずである(少なくとも私はしていた)。 
 レアとリニアを中心に置きたかったのか、ミスランディアの思い出として大切にしたかったのか、どちらにしてもプレイヤーまで思い出で我慢する羽目になってしまった。
 ミスランディアが哲学者・錬金術から離れていくに連れ、ゲームの世界とプレイヤーも遊離してしまったような気がする。
 完成されているようにも思えるが、結局は自己完結レベルに過ぎないゲームとも言えてしまう危険がある。


(総評)
 瞳裸シリーズも、もはや三作目。
 漂泊の放浪者の世界としては四作目となり、なんだかかなり壮大なスケールになってきたようだ。
 今作は、その中の二番目の話となる。
 正直なところ、今回の作品は一作目の「瞳裸」ぐらいはプレイしていないと首を傾げることが多くなると思う。

 批評部分でも書いたように、終盤まで出てこないアリアに気を回しすぎている。
 彼女との思い出の多さが、今作から始めるプレイヤーを突き放してしまった。
 前二作への興味を喚起する狙いもあったかもしれない。
 しかし、それならもっとアリアが覚醒した後の話を多くしないと意味が無い。
 これが一作目であったなら、「CGを見るだけの、一人よがりのゲーム」と酷評を受けていたかもしれない。

 ゲームを支えたのは、女の子達ではなくプレイヤーキャラのミスランディアだ。
 彼なくしてはこのシリーズは語れない。
 ミスランディアは、ここでのバッドエンディングを経て、三番目「瞳裸皇」の舞台となるボッサール国で失意のうちに生涯を閉じる。
 「瞳裸」と「瞳裸V」と「瞳裸皇」をつないでいるのは、全てバッドエンドなのが面白い。
 そこには、常に幸せになることが許されない“探求する者”の宿命に対するこだわりが感じられる。
 ミスランディアにとっては悲しい話だが、「愚民に私の研究など理解できるはずもない」と自らが語る通り、彼は孤独であり続けることで、その存在が許されるのだ。
 今作から初めて入るプレイヤーは、女の子よりも彼に注目をすれば、問題無いだろう。
 良いキャラクターを造ったという点では、スタッフを評価したい。

 しかしイマイチ直り切らないのが、相変わらずはっきりしない世界観。
 シリーズを重ねることで、なんとなくミスランディアが放浪した様子は感じられるようになってきたが、相変わらず大国がある・近くに街がある等、局地的な表現しか存在しない。
 100年もの間放浪していた割に、彼の知識はお粗末なものにしか感じられない。
 つまり、未だ彼のいる世界が構築できていないのだ。
 シリーズが完結するならそれでもいいが、まだ続けるのなら、今度の作品には世界地図の一つもつけて欲しい。
 だが本作では、ミスランディアの最後が既に見え隠れしているので、彼を使ってのシリーズ存続は難しくなっている。
 だから個人的には次のシリーズでは、アリア・レア・リニアをミスランディアの意思を継ぐ者として、更なる見知らぬ土地への放浪をさせて欲しい。

 色々不満が上がってしまったが、このシリーズの中では、私はアリアが一番のお気に入りなので、復活しただけでも善しとしよう。
 人に薦めたいけれど、もうひとつ押しが足りない。
 なんとなく、もったいない気がしてならない作品だ。

(Mr.BOO)


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