誰彼 〜たそがれ〜
最近、ポップな感じの作品を多く手がけてきたリーフが久々に放つ、ダーク路線系の新作。
ACTIVE・DORAMATIZE・NOVELSと銘打った、チップアニメーションを駆使した新機軸の効果は如何に?
1.メーカー名:リーフ
2.ジャンル:ADV
3.ストーリー完成度:C
4.H度:C…かな? ただし、リーフ作品の中ならぶっちぎりのAかもしらん。
5.オススメ度:D
6.攻略難易度:C
7.その他:おいおい大丈夫かい? 最近ただでさえライバルが多くなってきたというのに、こんな程度のモノ出しちゃって…
(ストーリー)
仙命樹…かつて、旧日本軍部が極秘に開発した、最強の強化兵士をつくるための媒体…
主人公・坂神蝉丸(さかがみ・せみまる)は、その強化兵を造る実験で唯一完成体と呼ばれた存在だ。
だが、そんな彼も今は封印された場所で静かに眠りにつくだけの存在でしかない。
棺の中で、永遠に…
しかし、その静寂も破られる時が来た。
蝉丸が安置された洞窟の中に、かすかに聞こえる二人の女の声と足音。それをきっかけに覚醒した蝉丸だが、次に視界に入ったのはかつての同僚・御堂の姿だった。
感覚が戻っても、体が全く言うことを聞かない。
そんな蝉丸に御堂は、彼の腹部に手刀を突き入れた!
たちまち響く女の悲鳴。
そして蝉丸の超感覚は、悲鳴をあげた女に向かって御堂がむき出しの殺意を放っている事を捉える!
彼女らが危ない!
そう思った瞬間蝉丸の拳が、今まさに襲いかからんとしていた御堂の拳をとらえた!
「雫」「痕」以来のリーフ久々のダーク路線系という事で随分と期待が高まった本作だったが、いざ発売されてみれば、どこの店に行っても新品は在庫の山として積まれ、中古もうなる様にあるというさんざんな結果に、正直俺っちは最初首を傾げたものだ。
このHPでライターをやらせてもらっている以上、当然他のレビューや評判も一通り目を通す俺っちなのだが、今回はどうもイマイチ評判がよろしくない。
あまり先入観が入ってもマズイので、ある程度で情報をシャットして取り組んだのだが…
この作品「誰彼」を一言で評すると「浅い」という言葉では十分ではないだろう。
「浅すぎる」というべきだ。
振りまいた謎や伏線、キャラクターの描き方・心理描写、ストーリー…全てにおいて「浅すぎる」感が拭えない。それが俺っちの正直な感想だ。
例を挙げてみよう。
例えば、この作品の中核を担う、強化兵に超人的な力と不老不死を与える「仙命樹」の存在。
これについて分かることと言えば、
○【共通ルート】で、それが強化兵の血の中に潜む、一種の寄生体であり、これにより強化兵は超人的な能力を得ているという事。
○【永遠の樹】編でそれが、蝉丸が安置されていた施設のすぐ近くの洞窟に存在しているという事。
○【不老不死を】編で老蝉丸がそれの研究を密かにしていたという事。
○【見届ける者】編で麗子が語る伝説。
この程度の情報しか得られない上に、仙命樹の謎・生態etc…オールクリアしても、コレに対する回答は殆ど得られないのだ。これじゃあね…
シナリオの根幹のあたる設定ですら、このザマなのだから、本編をやっていても終始、こんな中途半端な調子がつきまとう。
さて、この「誰彼」のシナリオは五本存在する。うち、最初にプレイ出来るのは二本で、それらを解くことで残りの三本が順を追ってプレイ出来るという「痕」に似た構成になっている。
なので、それに対する寸評に移ってみよう。
【紅い絆】
ヒロインの1人である三井寺月代と、覆製身きよみを中心としたシナリオ。
まず、一つ言えることは謎を殆ど残して終了してしまうシナリオのため、これ単体での評価はイマイチ難しいという事だ。
特に、月代が実はかつての蝉丸の幼なじみ、きよみの覆製身(クローン)だということが発覚するのだが、彼女が普段どういう生活をしているのか? 何故彼女はその事を知らなかったのか? という疑問がどうしても浮上してくる
彼女を生み出したのが、かつて強化兵の実験に関わっていた犬飼であり、更に蝉丸の覆製身である老蝉丸の姪として月代は存在しているのだから、そこらへんにつながりがあったというのは理解出来る。
しかしシナリオから察するに、月代はどう考えても、それまで普通の女の子として育てられていたとしか思えない。
彼女が叔父である老蝉丸の家に滞在するのは夏休みの期間だけなのだから。
だが、実際のゲーム中では彼女の普段の生活や両親の話など一回も出ては来ないご都合ぶりだ。
ここらへんに伏線が全くないため、月代=きよみ覆製身の事実が発覚しても、どうにも唐突過ぎて、面食らってしまう。
この後のシナリオでせめて、種明かしでもあれば良かったのだが…結局そんなものは一切ないのはお粗末だとしか言いようがない。
ただし、文章や描写の短さは別にすれば、月代と覆製身きよみの心の葛藤がきちんと描かれているのは、この作品でも数少ないプラスポイント。
また蝉丸や、御堂・岩切らが覚醒した理由についても述べられるので、整合性はまだとれていたとも言える。
【永遠の樹】
仙命樹の謎を追うのがメインプロットのシナリオだが、実際のトコロは御堂の蝉丸に対するコンプレックスを上手に描いたシナリオだ。
また、夕霧のHシーンが唯一あるシナリオでもあるため、夕霧編かと思いきや、実際は…
夕霧は本当にHシーンがあるだけで、途中からあっさりと脇役に戻ってしまう。最後のクライマックスの場面にも顔さえ見せない有様だ。
随分むげに扱われている様な気もするが、この作品の中でもっとも蝉丸に関わりのない人物でもあるため、しょうがないと言えばしょうがないのかもしれない。
蝉丸らが安置されていた近くの地下洞窟に、ひっそりと佇む仙命樹は、設定としてはなかなか面白いと思う。
仙命樹の呼びかけに発狂してしまう岩切はなかなかの迫力だ。
しかし、最後にその樹木自体を食らった御堂が怪物に変身してしまい、あげくにその力を制御しきれずに消滅なんて…オチとしてはあんまりじゃない? コレ!?
御堂が蝉丸をも上回る力を渇望していたのは良く解るが、それにしても唐突すぎるし、なによりありがちどころの話ではない。
プレイヤーに「ああ、やっぱり…」などと思わせている様では、どうにもならない。
しかも、それからすぐに仙命樹をほっぱらかしにして「月代は俺が護る」って言ってそのままED突入って…あの〜余韻もクソもないんだけど…
【時を越えて】
この「誰彼」におけるメインストーリーとも言えるシナリオで、前2つのシナリオで少しだけ登場する光岡との決着や、本当のきよみとの恋が成就する。
話としては決してつまらない訳ではなく、テーマとしても良いとは思う。だが…
あのEDは一体何なのだ。
紆余曲折の末、50年もの時を経て再会を果たした蝉丸ときよみ。
しかし、そうして結ばれた二人は最後に、これから先永遠に生きていかなければならない存在である自分達を「この世に存在してはいけない存在」として、仙命樹にとって猛毒の効果を発揮する液体をあおり、海へと身を投げてしまうのである。
ええ加減にせえよ。
確かに、きよみは不死となった。
それがどんなにこれから先を生きていくのに辛い事なのかは良く解る。
しかし、それならば今まで彼女の面倒を見てきた祐司の苦労はどうなる?
蝉丸を慕ってきた月代・夕霧・高子はどう思う?
最後に二人に未来を託して逝った光岡の想いはどうなる?
それらは、最後の書き置きに「ごめんなさい」と書いてしまえば済む程度の軽いモノだったのか?
きよみの自殺は逃げだ。
しかも、身勝手極まりない逃げだと言っていい。
考えに考え抜いた末の結末ならば、それでもいい。
例えば高橋留美子先生の漫画「人魚の森」シリーズの様に、様々な経験をした上での結論だったというのならば、俺っちだって何の文句も言わない。
しかし、きよみは覚醒した二日後に、もうこの様な結論に達してしまうのだ。
そこまでのゲーム中に、不死であるが故の辛さを少しでも描写したか?
永遠に生きる事の悲しさを表現する場面があったか?
はっきり言ってしまえば、きよみや蝉丸に逃げなどという選択肢は許されないのだ。
例えこの先どんな艱難辛苦が待ち受けていようとも、彼らの再会を支えてきてくれた多くの人物の想いがある以上は。
永遠に生きる事が、本人達にとってのカルマなのだと考えているのならば、何故それに立ち向かおうとしないのか。
そう、上で挙げた「人魚の森」シリーズの主人公が、不死から元の人間に戻るために旅を続ける様に…
最近悲劇指向の作品も増えたけど、安直過ぎやしないかい?
「AIR」の観鈴の運命は、あそこまで徹底的なストーリー展開とシナリオ運びがあったからこそ、感動出来たんだよ。
「AMBIVALENZ」や「デアボリカ」「アトラク=ナクア」のアリスソフトが得意な不死者がらみのストーリーだって、そこに至るまでの過程を綿密に描いているからこそ、EDに至っても納得出来る様になっているんだ。
安直に悲劇を語っても、そこに行くまでの過程がダメじゃ、お話にならないよ。
病弱という設定を抜きにしても、きよみが弱い存在だというのは解るが、これじゃ、感情移入どころの騒ぎじゃない。
そういう点では、彼女はリーフ歴代最低のヒロインと言っていいね。
【不老不死を】
実は、結構面白かったのがこのシナリオ。
ある程度予想はついてたけど、主人公の良き協力者だった老蝉丸が実は黒幕だったという展開。
ただ、そうなると今までやってきたシナリオの根本的な部分を全否定してしまう事にもなってしまう、ちょっと困ったシナリオでもある。
結局、仙命樹を体内に宿している者をコントロールする術を老蝉丸は、それを使い強化兵をコントロールして蝉丸を襲わせていたわけだが、それでは、さんざん危険な目に会ってきた月代の説明がつかないし、犬飼・覆製身きよみの設定も根幹から覆る事になってしまう。
あくまでも番外編と考えれば、納得も行くが。
何より、このシナリオが語りたかったのは高子の最後のセリフ「永遠に生きて、どうなると言うんです」に尽きるのだろう。
これは【時を越えて】編でのきよみの運命に対する代弁だ。
それは分かるのだけれど、永遠を生きる辛さ・悲しさを高子に語らせてもしょうがないだろうに。
そういうテーマを見せたかったのであれば、それはあくまでも【時を越えて】編で見せれば良かっただけの話だ。
そういう経緯がない、もしくは【時を越えて】編をきちんと描いていれば、なかなか面白かったと思うんだけどね。
【見届ける者】
この作品の中においてもっとも謎多き人物、麗子を中心としたシナリオ。
しかし、さんざん意味深なシーンを見せつけるだけで、あっさりと終了してしまうのは、どうか?
蝉丸らの覚醒、月代の秘密、老蝉丸との繋がり、そして仙命樹…全てに関わってはいる様だが、「じゃあ、アナタ何モンですカ?」というプレイヤーが当然抱く疑問には一切答えてくれないのは拍子抜けだ。
そういうものを語るのに光岡に語る「おとぎ話」程度では十分ではないだろうに。
【見届ける者】のタイトル通り、傍観者に徹するのは結構なのだが、それでプレイヤーが納得するのかどうかは、また別問題。
考えてみれば、この作品における重要人物である事には間違いがない。
こういう点を含めて、もっときちんとした説明がなければ、こういうサブキャラを配する意味はないと思うが。
こうして、シナリオ関係に目をやると、本当に誉める所が少ない。
流石に文句ばっかり書いてると、精神衛生上まことによろしくない(笑)ので、ちょっと長所にも触れてみよう。
まず最初に挙げておきたいのが、今回の目玉とも言える、チップアニメーションによるアクティブモードの存在だ。
5〜6頭身のキャラクターが見せる動きは、発売前の雑誌等についていた体験版などをみた限りでは「だから何?」程度に俺っちは考えていた。
だが、戦闘シーンなどが多いこの作品において、そう言ったアクティブな場面を文章だけでなく、視覚的に見せようと言う試みは大いに評価している。
また、実際なかなか良い動きをしているので、演出的に申し分ない。
特に洞窟内での岩切との戦闘シーンでの滑り込みながら斬撃をかわすシーンや、麗子の阿修羅閃空(大笑)などはかなりカッコイイし、怪物御堂の最後なども非常に解りやすく、このアクティブモードの長所を良く心得ている。
次にCG&演出のキレイさ。
もともと、原画のカワダヒサシ氏(旧ら〜・YOU氏)の絵は「To Heart」の頃からお気に入りだった。
今回は塗りが少し暗めなのだが、独特な明暗の出し方をしておりいい感じに仕上がっている。
Hシーンがきちんといやらしく見えるのも、この塗り方のお陰だとも言えるだろう。
また、背景が田舎独特の光景を上手く表現しており、非常にいい雰囲気を出している。これらが組み合わさって、画面の効果を高めているのだ。
あとCGの使い方でも蝉丸が水中に引きずり込まれるシーンで、画面全体がゆらゆらとゆらめいていたり、非常にグレードが高い。
そして、最後に音楽。
全体で見ると、地味目でぱっとした曲はないのだが、一番最初の「introduction」からタイトル画面の「宵闇」へのつなぎは非常に良い雰囲気で演出的にも申し分なく、「さあ、これから、どんな物語を見せてくれるのかな?」という感じにさせてくれ、とても気に入っている。
今までのリーフのBGMとは明らかに違う雰囲気だが、これもまた良しかな、と想っている。何より、作品のイメージや雰囲気にピッタリである。
またOPとEDの男性ヴォーカルの主題歌も格好良くてなかなか。特にEDテーマ「心(SORA)」は出色の出来だ。
こういう表面的な部分は良いんだけどねえ…
(総評)
「長瀬さんがいない、フキフキがない」(笑)という点を除いても、非常にリーフらしくない作品だ。
今までのイメージを払拭しようとしているのだろうCGの塗り方や(何か、一部外注みたいね)、派手目の曲がないBGMなど、こういう点については不問に付すにしても、シナリオがここまで浅いというのは予想外の更に外。
もっとも、リーフの作品をやるのは「PS版To Heart」以来なので、何とも言えないが…
アクティブモードの事も踏まえれば、実験作だったのだろうとも想う。そうとでも考えなければ、この内容の薄さは納得しかねる。
また、会社内でこの作品を巡ってかなり色々ゴタゴタあったらしいという話も耳にした。
それが嘘か誠かはともかく、そんな事は高い金払ってゲームを購入するユーザーには全然関係ない事だし、もし本当にこの浅い出来の要因が、そういう事にあるというのならいい迷惑だ。
今まで良質の作品を多数手がけ、ユーザーの信頼を得てきたリーフ。
しかし、今や多数のライバルブランドが出現し、その地位を脅かしつつあると感じるのは俺っちだけだろうか?
そこに来て「とりあえず悲劇でも作っとくか」程度の作品を出せばどういう事になるか、今回の在庫過多はそれの答えの様にも思う。
もはやこの業界では大企業となり、常にTOPのものを提示しなければならないリーフ。
その行末は前途多難なのかもしれない。
「誰彼」は、そんな予感を今回俺っちに抱かせたのだった。
(梨瀬成)