Close to 〜祈りの丘〜 (ドリームキャスト)


 幽体離脱してしまった主人公…
 再び肉体に戻る事が出来るのか?


1.メーカー名:KID
2.ジャンル:ADV+探索
3.ストーリー完成度:A
4.H度:−
5.オススメ度:A
6.攻略難易度:C
7.その他:間違いなく名作と言える出来なのだか…KIDさん、そろそろ天使のネタは止めにしませんか?


(ストーリー)
 4月2日…泉美野高校に通う穂村元樹(変更不可)は、柏木遊那とのデートを楽しんでいた。
 幼なじみである遊那とは元々微妙な関係であったのだが、去年のクリスマスにある事がきっかけで付き合い始めたのだ。
 その遊那との久々のデート…写真好きの遊那に付き合って何気ない日常の風景を撮影するという、他愛のないもの。
 だけど、元樹はそんな中に幸せを感じているのであった。
 そんなある日、夕方近くになって展望台へとやってきた二人。
 些細な事から喧嘩をしてしまい、その仲直りに撮った記念写真…
 帰り道、雨が降ってきたので、コンビニへ傘を買いに立ち寄った二人。
 その時、遊那が反対の道で誰かを見つけた。
 声をかけようとして、車道に飛び出だした遊那に向かって、停車中のトラックの影から別の車が飛び出してきた!
 瞬間、元樹は遊那を助けるために飛び出した!!

 そして、元樹の意識は闇の中に沈んでいくのであった…


 このゲーム、発売前の紹介文では「幽霊になってしまった主人公が、記憶を失った彼女に自分の存在を気付かせるために…云々」という内容で紹介されていました。
 初め「いったいこれで恋愛ゲームとして成立するのか?」と甚だ疑問を感じていたのですが、懲りもせず手に入れてみたところ…
 えーと、何て言って良いのやら…適切な表現方法が見つかりません。
 かろうじて言えるのは「死で感動を誘う」タイプの物語なのですが、主人公自らがそれをやってます。
 「元樹を如何様にして成仏させるか?」「より感動的に成仏させた方が勝ち!」です。
 中にはちゃんと生き返る場合もあるのですが、「メインヒロインになればなるほど生還率は低くなる」という、他にはちょっと無さげな内容構成になっています。
 ここまで来ると「KIDらしさ」が非常に目立つのですが…この作品は、今までのKID作品とは格が違いました。
 多少無理矢理な設定ですが、主人公の目的が“生き返る事”と明確になっている分、物語自体に付いて行くことは容易です。
 単純に「死んでいるから生き返ればいいや」という発想であったら、各ヒロインとも似たような展開になってしまうでしょうからね。
 ヒロイン同士の伏線の張り方が良い意味でえげつなかったり(後述にて)…はっきり言って、ちょっと今回はKIDを見くびっておりましたな。


 さてゲームの方ですが、まずはシステムから説明します。
 基本的には以前の作品と大差なく、選択肢や目的地を選んでいくオーソドックスなタイプです。
 選択肢による進行はさほど難易度も高くなく、目的地も「どこに誰がいる」という情報を確認する事が出来ます。
 恐らくですが、ストーリー重視のため難易度は低めに設定したのでしょう。
 その反面問題を抱えている物もありまして、新システムで“ルームパート”なるものが存在します。
 これは「遊那の部屋に行き、一日に使える念力量の内でどれだけ遊那の記憶が戻るきっかけを与えられるか?」という物です。
 この様なものがなぜ必要かといいますと、遊那は事故の影響と元樹に怪我をさせてしまったショックから記憶を失ってしまっているのです。
 その記憶を戻す事が、生き返るための3つの条件…
 肉体的条件(肉体の状態)
 精神的条件(本人の意思)
 運命的条件(愛の力)

 で、この中の運命的条件を満たすために必要になってくるのです。
 要は「遊那が元樹の事を思い出し、生き返る事を願ってくれれば死に逝く運命を変える事が出来る」という代物です。
 さて、そのルームパートなのですが、遊那の記憶を取り戻すきっかけになるものを探すまでが、非常に面倒くさくてたまりません。
 結構アイテムがありますし、その時々によって出てくる物も多少違うので探すのに手間取ってしまいます。
 また、ある程度時間が経つと自動的に目的のアイテムを教えてくれる場合もありますが、それまでの時間が長いので無駄が発生してしまいます。
 そして、何より問題なのが「ヒロインを遊那以外に設定していても、これは発生する」という事です。
 さすがに回数自体は減るのですがが、それでも「またかよ」ってなタイミングで出てきます。
 「幽体だからこそ可能」なシステムなので発想は間違っていないと感じます。
 操作にある程度の爽快感が伴えば、優秀なシステムになった事でしょう。
 もう一つ言うと…元樹の事を忘れた遊那の天然ボケ炸裂な日常を見る作業が待っています。
 ここは個人の感じ方に左右されやすいのですが、パッと見の感想としては「この場違いな人は何だろう…」ってな具合です。
 その他はノベル系ゲームに必要な「文字送り」や「読み返し」は十分に機能を果たしていました。
 ルームパートのみがテンポを崩していたので、残念に感じます。
 
 次にストーリーの方ですが、組み立て方が非常に上手いです。
 そう感じる理由としては、大まかに二つあります。
 一つは、幽体など不確定な事柄を扱っているにもかかわらず、さほど違和感を感じること無く受け入れられること。
 もう一つは、各ヒロインごとのストーリーではまったくわからなかった事や疑問に感じた設定も、クリアをしていくとしっかり見えてくることです。
 言ってしまえば、共に「世界観がしっかり作られている」ということなのですが、二つに分けて考えてみます。
 最初の方は、ルームパートの時にも書いた“肉体への戻り方”なんかの設定などです。
 あまりオカルトめいた知識がないため、個人的な意見になってしまいますが…
 出てくる知識の全てがその手の本を見れば書いてありそうな、もしくは思いつきやすそうなレベルです。
 よっぽど「俺は幽霊なんか信じない」や「火の玉はプラズマだ」などという人でなければ、充分納得できるレベルだと思います(もっともそんな人は、はなからこのゲームは手に取らんか…)。
 変に高唱な設定を持ってこずにレベルを下げたことで、全体的にゲームの世界観をまとめています。
 またそれによって、ユーザーが入りやすい設計にしているのだと思います。

 さてもう一つの方ですが、私の感じるこのゲームの要です。
 基本的に個々のストーリーでは、説明不足としか取れない個所や深く突っ込まなくても良い個所が目立ちます。
 それがクリアをしていくと、だんだんと明確になっていき最後でピタッと収まります。
 また、全体的には狭い範囲でのお話になってしまいますが、小さい分とても綺麗にまとまっています。
 シナリオの引き込み方が上手でパズルを解いていくように進むため、ある種の爽快感が漂います。

 …と、ここまで誉めておいてなんですが、欠点も存在します。
 作り手はかなり綿密に狙って作っていると感じるのですが、その狙いから外れてしまうと、面白さが減ってしまいます。
 端的に言うと「クリアするヒロインの順番を間違えると面白味3割減、最悪5割減」となります。
 初プレイ時、私は3割減を引き当ててしまいました…いいもんいいもん、もう一回クリアする(した)から…
 なぜ面白さ減なのか諸々の理由は、ヒロイン別で書いていきます。
 元樹の生還率が高い順にヒロインを並べて、見比べてみましょう(ちとネタバレ)。
 

(汐見翔子)
 生還率…100%
 元樹、遊那と大親友で、実は元樹の事が好きな女の子です。
 この三人に藤碕龍作という男子を加えた4人が、仲良しグループになります。
 翔子自身は霊感もなく、幽体になった元樹を認識することはできません。
 シナリオ自体は、翔子に生き返るための手助けをしてもらい、その過程で翔子の気持ちに気付くといった内容です。
 と、大まかな流れは「これ以外には考えにくい」マンマのストーリー展開です。
 翔子のシナリオで特筆すべきは、エンディング2種類のうち一つが…
 唯一「遊那の記憶が戻った状態で生き返るエンディング」だということです。
 ゲームを始めるにあたって、元樹が他の娘とくっついた時「一体どうなるの?」という疑問が当然のようにあったのですが…
 遊那の記憶が戻らない、および基樹が死ぬことによって回避されています。
 で、遊那の記憶が戻るシナリオでは、きちんと遊那との別れが書かれているのが良いですね。
 「やったー、生き返った」でハッピーエンドになるのでは無くて、後日談もしっかりしていたので良かったと思います。
 また、扱っているものが不安定なお話の中で、一番現実味が強いシナリオでした。
 
 
(橘小雪)
 生還率…50%
 元樹たちより一年下で現在高校二年生、容姿端麗、成績優秀、ついでに体が弱いという三拍子そろった女の子です。
 もともと霊感があるので、幽体になった元樹を視認することができます。
 そのため元樹に憑きまとわれる事になってしまいます。
 基本的には初めの内は基樹が小雪に付きまとい、中後半は小雪の病気を中心に物語が進みます。
 小雪の病気というのは重い心臓病なのですが、これはゲーム全体を通してのキーワードになっていきます。
 全体の立場としては、翔子・遊那側と麻衣側をつなぐ橋渡し的な役目だと思われます。
 また、ノーマルとハッピーエンドではまったく正反対のものが用意されています。
 ノーマルは基樹が助かり、小雪が死んでしまいます。
 ハッピーはその逆で、基樹の心臓が小雪のために役立ちます。
 正反対のエンディングを用意しているのは小雪のシナリオだけなので、強く印象に残るのではないかな? と思います。

 ただ一つだけ、どうにかしてほしい問題がありまして…
 小雪のノーマルエンドとハッピーエンドを比べると、ノーマルエンドの方がいい出来なのですが…
 
 
(柏木遊那)
 生還率…0%?(エンディングを見る限りでは死んでいる)
 なんか似たような名前を聞いた事があるのですが(ごめんなさい)…メインヒロインで、元樹を殺した(?)張本人です。
 挙句の果てには元樹に関する記憶をなくしているという、見ようによっては修羅のような生き様ですね
 性格は、はっきり言って天然ボケ炸裂です。
 『夢つば』『てんたま』とやってきて、やっと人間のヒロインにめぐり合ったと思ったら、頭の中に天使が住み着いていました(泣)
 ルームパートでも触れましたが、このゲームを気に入るかは半分くらい「この娘を気に入る事ができるか?」にかかっています。
 ただ個人的な感想では、わざと天然ボケ炸裂のキャラにしているのだと思います。
 必要以上に明るい性格を持ってくることにより、一層“死や基樹の立場”というものを際立たせようとしたのでは? と感じます。
 
 さて遊那を攻略キャラに設定した場合、基樹の当初の目的を実行していくため目立った方向転換がありません。
 ゲーム的に、元から彼女なので「遊那の記憶を取り戻すか他の娘に浮気をするか?」というスタイルになると思います。
 説明が遅れてしまいましたが、このゲームは4月15日の遊那の誕生日をはさんで前後半に分かれます。
 誕生日に基樹のことを思い出せば遊那のシナリオへ、そうでなければ他のヒロインのシナリオへとなります。
 遊那シナリオは、ゲーム前半では基樹がひたすら遊那の記憶を戻すことに頑張り、後半では遊那がひたすら祈るというイメージです。
 ちと単調になりがちなシナリオですが、その分他のシナリオへ影響する事柄が多く含まれています。
 よって最初にプレイすべきシナリオはこちらが良いと思われますし、事実その様に設計されているように感じられます。
 メインヒロインを使って他のシナリオを引き立てる…これは、結構上手くいったと思いますよ。

 ただね、説明書を見てみると遊那の嫌いなものは“オバケと幽霊”という、どうしようもない設定が出てきます。
 なのに、それがゲーム中で活かされたシーンが見受けられ無いのは残念です。
 
 
(咲坂麻衣)
 生還率…0%(どう考えても死ぬ)
 小雪と同じく、幽体になった元樹を認識できる霊感小学生6年です。
 また、麻衣曰く「小雪は私の弟子」というほどオカルトめいた知識を豊富に持っています。
 元樹も肉体への戻り方、夢への入り方などアドバイスを受けることになり、キーパーソン的な役割のヒロインです。
 最初“小学6年生”という単語を見た時「KIDよ、ついにやっちまったか…フッ」と思った記憶があります。
 
 さて、私は遊那を最後に攻略しようしていて、何度も頑張っていたのですが…
 遊那を攻略すると初めて「麻衣編、開放」とでてきて、ようやくクリア可能になります。
 何故、メインヒロインである遊那が踏み台にされているかといいますと…
 元樹・遊那の幼なじみで、小雪の姉という裏設定があるからです。
 そうです、高校三年生の基樹の幼馴染で、高校二年生の小雪の姉です。
 なのに小学6年生………幽霊です。
 これがわかった時点で、遊那を蹴散らし麻衣がメインヒロインの座を勝ち取ります。
 また、十分にその力を持っています。
 遊那が安定的なシナリオに対して麻衣のシナリオはどんでん返しが多いシナリオです。
 その分最後にやらないと、まるっきり話が見えてこなくなりますし、他のヒロインのシナリオ…特に小雪のシナリオが意味を成さなくなってしまいます。
 麻衣も小雪と同じ病気でこの世を去っているのですが、そのことが基樹の過去にまで関係していて…一番ポイントになるだろう所なので、あえて伏せておきます。
 まあ一番最後にやるべきシナリオでしょうね。
 
 ちなみに小雪と麻衣の名字が違うのは、両親が離婚してしまったからだそうです。
 
 
(総評)
 ストーリーの勝利
 このゲームの感想を一言にまとめると、このようになります。
 システムはいたって普通、絵がロリ路線(最初全員が小学生かと思った)、声優は違和感を感じないですむ程度(それでもありがたい)の本作が面白いのは、ストーリーがしっかりしているからです。
 「その設定は何じゃー」と言いたくなるようなKIDらしさを、見事に逆手に取っているのでしょう。
 また、起承転結がはっきり存在しています。
 起:遊那
 承:翔子
 転:小雪
 結:麻衣
 です。
 遊那で全体の疑問を洗い出し、翔子で遊那側の設定を補足する。
 小雪で心臓病を出したりして麻衣につなげ、最後に麻衣で締める。
 おそらくこの順番が正しいルートではないかと思われます。
 ただ、体的に事故やら幽霊などの“死”につながっていく事柄が多いため、そのような雰囲気が駄目な人は手を出さない方が良いでしょうね。
 あくまで基本的には「死で感動を誘う」タイプの物語ですからね。

 さり気にゲームミュージックで耳に残る曲が多いです。
 キャラクターのテーマソングから始まり、その他の音楽もシナリオの場面に合わせて作られています。
 音楽も、物語に浸透しやすくしている一因ではないかと思います。

 グラフィックですが、これは曲者です。
 今のKIDの流れなのか、今回も有名な同人作家さんを使っております。
 ロリロリの絵で売れている方なので、シビアなシナリオとあいまって拒絶反応が出るような気もする…塗りは丁寧だから良し。
 
 まあ、その辺のショップに山積みにされているソフトを選ぶくらいなら、こっちを引いた方が断然得をしますね。
 昔のKIDと比較するためにやってみるのも良いかもしれませんし…「ちさタローの馬鹿ぁ!」…なぁんてね。
 

(エルトリア)

戻りマース