果てしなく青い、この空の下で…

 ある過疎の村の、廃校間際の学園の生徒たちが過ごす、1年間の物語。

1.メーカー名:TOPCAT
2.ジャンル:サウンドノベル形式ADV
3.ストーリー完成度:B
4.H度:C
5.オススメ度:A
6.攻略難易度:D(エキスパートモードを目指すと、B)
7.その他:2000年度における代表作の一つであろう。


(ストーリー)
 安曇村(あずみむら)…そこは、都市化の波からはずれ、過疎化が進んでしまった場所である。
 しかし、そんな村にも電車が通ることになった。
 俺たちの通う安曇学園をつぶして、そこに路線を通そうというのである。
 俺・戒田正士(名前変更可)の他5人の少女達しか生徒がいないが、思い出が沢山詰まっている場所。
 何とか回避は出来ないのであろうか…
 だが、村に居座っている元代議士の堂島は、すでに脅しや買収などでほとんどの村人に圧力をかけており、抵抗しているのは僅かしかいない。
 何とか堂島を追い出し、学園の取り壊しを防げないものなのか?
 

 このゲーム、とある雑誌の評価でとても高い点数を付けておりました。
 そこで、
「ふーん、本当に面白いのかな? ここは一丁やってみますか…」、と天邪鬼な心と淡い期待を込めて本ソフトをやってみたのですが…やってみると、一気にのめり込んでしまった作品です。
 このゲームは今までの“TOPCAT”の作品『雪色のカルテ』や『WORKS DOLL』などとは違って、単純なADV形式になっています。
 物語は始業式・春・夏・秋・冬の全五章に分かれています。
 プロローグの始業式、ストーリー共共通部分の春と夏、そして過渡期の秋、エピローグの冬という風に分かれています。
 前回の鷹羽飛鳥氏の評論にもありましたが、春と夏あたりのお話からは想像がつかないくらいの怪奇物になってきます。
  
 この作品は、村という閉鎖空間における人とのつながり、その中での「都市化」と「村に伝わる伝説」が、上手く出ているのではないかと思います。
 また、堂島というある種の現実世界での力と、ヤマノカミに代表される精神的な支配(この作品では、伝説止まりではなく実在するモノとなっています)の「対比」、書かれ方は上手かったです。
 私は、生まれも育ちも都会の真ん中なので、村…まあ田舎ですね…の実際の雰囲気というものは、分からないと思います。
 それでも、本や人から聞いた話の中で感じたイメージとの違いはあまり感じませんでした。
 「自然」とそこに存在するであろう存在(人間以上の力が働く物)というのを、良く表現していると思いました。
 それと、ストーリー前半の内容と後半の内容が全然違う物なのに、あまり強い違和感を感じずに移り変わっていく様、日常から非日常への変化の過程はとてもよく出ていました。
 ただ、八車文乃の存在があってこそ成り立つ所もあるので、彼女の事は外せませんけれど…。
 このようなタイプのお話は、ある程度基礎がしっかりしていないと世界観はなくなってしまうし、「どかっ!」と見せてしまってもバランスを無くしてしまいます。
 その点においてこの作品は、一年間という期間の中ではありますが、段階を追ってきちんと出していると思います(最後まで引っ張り過ぎた悪い例が『D〜その景色の向こう側〜』とかいうソフト)。
 
 さて、基礎はしっかりしているので、後はヒロイン達の個々のストーリーが大切になってくるわけで…。
 それでは、簡単に書いていきたいと思います。


<芳野雨音>
 その容姿、性格からメインヒロインになるでしょうね。
 物語冒頭、正士も「雨音ちゃんが理想的な彼女」みたいなことを思うので、この娘とのストーリーが一応のメインになるのでしょう。

 堂島とのかかわりが強い分、現実寄りの話となっています。
 この中で正士は雨音を助けようとするんですが、堂島の家に無断で侵入したり働きに行ったりと、いささか無謀な行動が多いです。
 ただ雨音のことを思ってのみの行動で、力も無く、村人の協力が得られない中での行動としては、あれが限界ではないかと思われます。
 よくある、能力の高い主人公が一人で解決してしまうようなノリでないので、殆んど孤立無援の正士の状態をよく表しているのではないかと思います。
 ただ、雨音の頑固で人を頼らない性格から、夏の小旅行にときに雨音の事を守ると約束した時点で、正士が向こう見ずになる展開が用意されてしまうので、少し先を急ぎ過ぎたように思います。
 早い段階で明確に“付き合う”設定にしてしまった分、少々無理がたたってしまった感がありました。


<穂村悠夏>
 村にある穂村神社の娘で、正士とは一番の幼なじみです。
 このゲームの現実面でも伝説面でもキーワードになってくる、穂村神社がかかわるお話です。
 ここら辺のことは鷹羽氏が書いていた内容が的を射ているので、簡単に書いておきます。

 堂島は、神社のある場所にホテルを建てようとしているので、そのための嫌がらせが前半。
 神社を焼かれてしまい、どうしようもなくなった二人が文乃に協力を求めて、堂島をどうにかするのが後半です。
 前半は、堂島の「元代議士+ヤクザとの関係」という普通の人では逆らいがたい力がネチッこく書かれていて、さほど問題は無く感じます。
 しかし、後半いくら悠夏の父・穂村辻雄が火事で入院してしまったとはいえ、文乃に「どうにかしてくれ」と頼むのは、突拍子過ぎますね。
 文乃と悠夏は仲が悪く、前半部では大したつながりがありません。
 不思議なこと(ヤマノカミにつながる事)は前半で、明確に出てこなくて、しかし話の核はヤマノカミの事なので、どうしても出さなくてはいけない。
 そこで二人の視界内にいて、不思議な事とのかかわりが深い文乃が出てくるのですが…。
 堂島を追い出したい気持ちや、神社を潰したくない気持ちには嘘は無いのですが、前半部の蓄積が無い分、後半で急ぎすぎた感がありました。
 後半も、正士の父親の宗介に力を求めるなり、村人に働きかけるなりの二人の自発的な頑張りが見たかったです。
 

<松倉藍>
 正士より一つ下で、後述の明日菜とは双子です。
 やたらと正士になついてくる、猫が大好きな女の子です。
 この娘のストーリーは、ヤマノカミの事にかなり引っかかって来るので詳しく書きませんが、ある存在と体を共有しています。
 本当の藍は、明日菜より引っ込み思案な性格をしています。
 悠夏のシナリオに引きずられて、前半はわりかし普通に過ぎていきます。
 正士をめぐっての、悠夏との微笑ましいバトルです。
 しかし、穂村神社が焼けてしまう所の後半から、不思議な話へと変わっていきます。
 ただこちらは悠夏シナリオと違い、不思議な方向へ行く訳が、後から明確に語られるので、より納得は出来ると思います。
 また、他のシナリオで語られなかった部分が補足的に説明されるので、この娘のシナリオをやることにより、解明されなかった謎が分かる反面、もう少し他のシナリオに振り分けてもらいたかったです。
 
 それと、鷹羽氏の評論にもあった「わかってるよ…仕事の方が大事なんだょ」。
 このセリフは、私が見たときも「なんでだろう?」と疑問を感じました。
 確かに、これはいただけなかったですね。


<松倉明日菜>
 藍とは双子で、引っ込み思案な読書好きの女の子です。
 いつも文乃と共に行動しています。
 文乃と一緒にいるので、「ヤマノカミとは何か?」との観点で話が進んでいきます。
 
 明日菜が第三世界の神を呼び寄せる“寄り代”となってしまうという、文乃の最終目標に対する心構え(?)が伺えます。
 ヤマノカミの事はネタに関わってしまいますが、正士が夢を見てその事を文乃に話したことで、秋から冬にかけて物語りが一気に進展して行きます。
 文乃の、ある意味での非情さが伺えるシナリオです。
 自分の知識・最終目標のために、利用するものは何でも利用する様子が出ています。
 しかし、明日菜&文乃のシナリオでは、文乃に“重き”が置かれていると思うので、明日菜のエンディングが多少おざなりになっています。
 ヤマノカミにささげる生贄となるところまでは良いのですが、その後に、逃げ出した先の洞穴でHシーンとなり、洞穴から出たと思えば季節が春になっています。
 もう少し、明日菜寄りのお話ができなかったのかと、少々残念に思います。


<八車文乃>
 表のヒロインを雨音とするなら、裏のヒロインといった立場でしょう。
 狂気の天才・八車斎臥の娘で、学園の中で唯一外から転校してきた少女です。
 転校といっても数年前の事になるのですが、その頃から極力他人とは接せずに過ごしていた、謎の多い少女です。

 前半部は明日菜とたいした違いはありません。
 中盤に文乃と行動を共にすれば、彼女の考え・行動理由が見えてきます。
 不思議な場所へと正士達を連れて行き、その過程で正士が本当に自分に必要なのかを見極める。そして、彼女の本心を知ることで正士は、より一層のものを文乃に与えていく事になる。少し斜めから見てみると「お互いの利害と方向性の一致」といった具合いになるのでしょう。 
 彼女はこちら(プレイヤー)側からの最も真実に近い存在であり、ヤマノカミをめぐる騒動の発端者であります。
 裏から表からと色々に物語を引っ張っていく存在ですが、その役目は十分に果たしていると思われます。


(総評)
 はじめの方で書きましたが、怪奇じみているにせよ、安曇村での“一年”というものがとてもよく感じられました。
 ゲームということを差し引いても、外界との接触がほとんど無い村での、とくに秋から冬にかけてのお話は、なかなかの演出と言っていいでしょう。
 物語のバックボーンとして、堂島が来る以前の事、そして側面的に、もっと他の村人および村全体のことが語られていたなら、もっと面白くなったかもしれません。
 ヒロインたちのストーリーは、「学園が無くなる」というスタート地点と「ヤマノカミの復活」というゴール地点、彼女たちの性格、そして18禁ゲームという事を考えれば、比較的まとまっていると思います。
 「正士が、誰を伴ってゴールへ行くか? 経路は自由に設定できる」といった感じですかね。

 それとこのゲームで忘れてはいけないのが、サウンドです。
 BGMもなかなかのレベルに達していますし、音楽は流さずに川のせせらぎや蝉の声で場を表現している場面などもあるのですが、見事にはまっておりました。
 ここの音楽センスは、なかなかの物になりましたね(とくに前作『L』のオープニングは酷かった)。
 とても雰囲気を大切にし、登場人物のほとんどに魅力を感じるゲームだと思います。
 もうほとんどの村人が忘れてしまった伝説の神=自然といったものが、よく現れていると思います(大げさかな?)。
 また、一つの事件を追っているので、一人クリアすると目新しさは少なくなってしまいますが、各ストーリーにそれを補うだけの力を持っているのも見所でした。
 
 (エキスパートモードについて…)
 私はこの情報をとあるホームページで見つけたのですが…。
 鷹羽氏の言うとおり、私の知る限り公式には何処にも発表されていないと思います。
 出し方が口コミのみで広がったこのモードは“エキスパート”と銘打っているので、それについての文句は私は言いません。
 コンシューマの『街』というソフトでも、メーカーはなかなか最後の隠しシナリオ・「花火」の出し方を公開していませんでした。
 新規のしおりで始めて、一度もバッドエンドを出さずに全員クリアするのが条件。
 これも、文字送り機能もあるし「もう一回くらいやってみようか」と思える作品なので、苦にはならないと思います(このことは個人差はあるでしょうが、私はそうでした)。
 徹底的に隠して、ユーザー同士のコミュニケーション狙ってやったのかもしれません。

 …ただし、中身が伴っていれば問題がないのであって、その内容があまりにもプーだった場合は、はっきり言って論外です。
 物語の後日談にはアラがありますし(明日菜のエンディングで文乃は行方不明になったのに、なぜか復活しているなど)、おまけストーリーは、正士は全員と付き合っています。
 しかも、ヒロインそれぞれのシナリオ設定を引きずりながら…です。
「せっかくの雰囲気とストーリーをぶち壊してどうするのよ?」
という訳で、出し方に文句はありませんが、内容がアホなので、一体なんだったのか…と。
 クリア特典のホームページアドレスが出たのが、唯一の救いです。

 (サウンドトラックについて…)
 TOPCATが、夏コミのときに限定で出したサントラ。
 これを欲しい人は結構いると思うのに<12月頭でも、いまだ再販未定…。
 早く販売してくれることを望みます。

(エルトリア)


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