果てしなく青い、この空の下で…。

 ヤマノカミの伝説の残る田舎町に押し寄せる、開発の波紋。
 停滞した平和か、混沌とした変化か…。  
1.メーカー名:top cat
2.ジャンル:マルチシナリオADV
3.ストーリー完成度:
4.H度:B
5.オススメ度:C(『下級生』のティナEDや『YU-NO』が好きな人にはA)
6.攻略難易度:B
7.その他:謎が解けないと、気になって夜も眠れない人はやらない方が無難
 
(ストーリー)
 主人公:戒田正士が住む安曇(あずみ)村は、街灯やアスファルト道路もロクになく、電車すら走っていないため、冬になれば町から出ていく手段はない、超の付く田舎だ。
 正士の通う安曇学園は、正士の他に芳野雨音(よしの・あまね)・穂村悠夏(ほむら・ゆうか)・松倉藍(まつくら・あい)・明日菜(あすな)姉妹・八車文乃(やぐるま・ふみ
の)の全校生徒6人であり、今年度一杯で閉園の危機に直面していた。
 学校の跡地には駅ができ、電車が通るようになるという。
 その計画を強力に推進している元代議士の堂島の家に、雨音が家政婦として通うことになった。
 堂島の悪い噂を聞いている正士や悠夏は雨音を止めようとし、藍は学校の閉鎖を嫌がる。
 正士は、最後の1年をどう過ごすのか。
  
 タイトルやこの共通部分のストーリーからは想像もつかないことだが、このゲームは怪奇伝説系だ。
 死人を生き返らせる神オド、蘇ろうとする魂を食らう“墓守の獣”イズ・ホゥトリヤ、オドを呼び出す儀式、吹雪の夜に降りてくるというヤマノカミなど、おどろおどろしい伝奇物語だ。
 穂村神社はもともと『』神社であり、ヤマノカミの使いたる墓守を祀る神社だし、世忍というヤマノカミに毎年生贄を捧げる役を担う一族がいるし、墓守を封ずる役を担う『魔ツ蔵』という家があったりして、伝奇的な環境も整っている。
 また、穂村が『』、芳野が『世忍』、松倉が『魔ツ蔵』、安曇が『悪棲』といった具合に、意味をすり替えた音の名前になっていたり、そのうち少なくとも穂村神社の神主である辻夫は既に穂村神社の本当の意味を知らなかったりと、長い時を経て廃れ始めた伝説だということを強調している。
 そこに人間の都合が絡んで、物語を形作っているわけだ。
 
 基本的にこのゲームの中で進行しているのは、同じ事件だ。
 主人公たる正士が誰を中心に見ているかによって、入ってくる情報が違うだけという作りになっていて、正士が知らないうちに、その他の女の子の周辺で起こる事件は基本的にほとんど変わらないのだ。
 では、それぞれのシナリオを見てみよう。
  
(吉野雨音シナリオ)評価:D
 夏に悠夏、藍、雨音と4人で海に旅行に行った際、正士は雨音から告白された。
 実は雨音が堂島の家で働くようになったのは、行方不明の雨音の両親の居場所を堂島が知っているからだった。
 なんとかして手掛かりを掴もうとする雨音を見て、正士は少しでも助けたいがために、自分も堂島の家で働くことにする。
 しかしそこで待っていたのは、雨音共々堂島のオモチャにされるという過酷な日々だった…。
 
 大人しい割に頑固な雨音の性格がまずい事態を招き、後先考えない正士の性格が決定的に悪化させるという悪循環なシナリオ。
 一応フォローしておくと、正士が雨音を思う気持ちに嘘はなく、それによって雨音の心が救われているというのも確かだ。
 雨音の告白「正士君、私の事…守ってくれる?」のシーンは、ゲーム中で一番“らしい”告白なので、鷹羽的にはそこが大好き(ああいう告白は、鷹風虎徹氏が一番好きなタイプだろーなー)だ。
 しかし、このシナリオでは、正士の考えなしな行動が鼻につく。
 筆頭が雨音が心配で、塀を乗り越えて庭に忍び込むシーンだ。
 いくら雨音が心配だからって、堂島の家に忍び込むということが、堂島を相手に戦う父宗介や穂村辻夫にどれだけ悪影響を与えるかということを、もう少し考えるべきだろう。
 これを見た時点で、鷹羽のボルテージはかなり下がった。
 少なくとも、この点1つ取っても、不法侵入として警察沙汰にされかねない。
 また、堂島の屋敷が空になった時に駐在が来るのは、雨音が勝手に屋敷の中をいじらないよう見張るためだということを彼女自身から聞かされていながら、駐在にドアを開けてくれるよう頼んで断られ、「警察も堂島の仲間なんだ」などと今更のように絶望するのもやめて貰いたい。
 更に、最後の雨音との夜の直前、あれほどのショックを受けた雨音が「一緒にご飯を食べたい」と言うことの意味を全く考えなかったことも、雨音を守る者としては大きなマイナスだ。
 万事この調子で、正士が事態を好転させたことはなかった。
 実際、正士が堂島の屋敷に働きに行かなければ、先生の、正に身体を張った努力によって、雨音に害が及ぶこともなかったのだ。
 事件が解決したのは、雨音の両親の怨念が正士と雨音に取り憑いて頑張ってくれたからであって、正士は雨音の家に住み込みでもして、雨音を慰めていた方が良かったのではなかろうか。
 また、雨音が自分のことを「芳野」と名字で呼ぶ癖があるのは、雨音が世忍の一族であるが故なのだが、それがどうして、芳野家から戒田家に嫁ぐことが決まると「芳野」と呼ばなくなるのかも少々不思議だ。
 家が変わり、役目を放棄したからと言って、無意識の一人称まで変わるものなのだろうか。
 ただ雨音と付き合い始め、堂島の家で働くようになった正士を敵と見なすようになる悠夏の描写は秀逸だった。
 あれはすごく納得できる展開だ。
 それと、堂島の家でのチンピラ達との触れ合いも重要だ。
 ただ暴れるばかりじゃない、人間的な彼らを描いたことにより、他のシナリオの際に彼らを見る目に違いが出てくる。
 
 それにしても、あれだけの力があるなら、雨音の両親もそう易々と堂島なんぞに殺されることもなかろうに。
  
(穂村悠夏シナリオ)評価:A
 ホテル建設用地として、高台に建つ穂村神社の土地を執拗に狙う堂島は、あの手この手で神社に嫌がらせをする。
 ある日、正士・悠夏を伴って直談判に出掛けた辻夫は、激情して堂島につかみかかろうとして、逆にボディガードに骨を折られてしまった。
 更に神社に放火され、神社で寝ていた辻夫は入院することに。
 助けようと炎の中に飛び込んだ正士は、妙な夢を見た。
 文乃に助力を請いに行った悠夏と正士は、文乃に連れられて行った迷宮を、神社で見た夢に従ってクリアし、山中にあるもう1つの穂村神社を見付け出した。
 この古い社を発表すれば、考古学的な重要性から堂島の横暴を止めることができるかもしれない。
 ところが堂島は、悠夏と正士を誘拐して…。
 
 正士の無力感がイタいシナリオだ。
 陰湿な嫌がらせをひたすら繰り返す堂島は、とにかく嫌なヤツなのだが、法的手段を取ることができないようなやり口をしている上に社会的地位もあるため反撃のしようがないという、最も現実的なシナリオとなっている。
 それが、悠夏の“神秘的な雰囲気を持つ文乃に頼んで、超能力で堂島を追い出して貰おう”という突飛なアイデアから、いきなりファンタジーの世界に突入する。
 正士が見た異様な夢、「穂村神社の真の姿」に到達するための試練など、よく判らない展開が目白押しとなる。
 最終的に、正士と悠夏を助けてくれた黒い闇に関して、文乃が何かをしたらしいことは判るが、何が起きたのかは結局謎のままだ。
 驚いたことに、悠夏も正士も、文乃に問いただそうとした形跡がない。
 確かに問いただそうにも文乃は行方不明になっているようだし、仕方ないのかもしれないが、もう少し描写があっても良かったのではなかろうか。
 また、正士が見る洞窟の夢が、もう1つの神社への道しるべとなる展開なのは、かなり唐突な感を否めない。

  
(松倉藍シナリオ)評価:C’
 廃校に一番拒否反応を示したのは、藍だった。
 健足会(遠足)の日の帰り道、正士は先生から、藍が普通ではないかもしれないという話を聞いた。
 藍は、幼い頃は明日菜以上に人見知りで大人しい娘だった。
 それがある時から、突然今のような性格になったため、知能テストを受けさせることになったのだが、その知能テストで異常に高い数値を出したというのだ。
 しかもその後数回受けたテストでは、点数こそ凡庸ではあるが、間違えた場所には法則性があり、数値を並べると猫のDNAになるという。
 ある日、藍が廃屋で隠れて飼っていた猫達が何者かに殺され、その日から藍の様子がおかしくなってしまう。
 やがて、廃屋が異様な雰囲気に包まれ、藍はその中でかき消えてしまった。
 正士が調べた結果、藍にはかなり以前から墓守が取り憑いていたが、その本体である絵馬が穂村神社と共に焼けてしまったために、墓守は藍の身体を本体として自分の本体を焼いた堂島を殺した後、身体が再生するまで、第三界という自分の世界に帰らなければならないらしい。
 その際には、藍の身体も一緒に消えてしまう。
 それを阻止するために、正士は堂島の屋敷に急ぐが…。
 
 このゲーム中最も現実離れしたシナリオかもしれない。
 結論から言うと、藍は、以前から墓守に取り憑かれているのだ。
 ゲームが始まる遙か前から、既に本当の藍はいなかった。
 そして、悠夏のシナリオで堂島達を殺したのは、藍だったらしいことも判る。
 月食の日にだけ実体化できる墓守の話、破瓜の血と精液の混合液を生贄に飲ませると降臨するオドの話など、悠夏シナリオや明日菜・文乃シナリオでの謎の大半がここで明かされる。
 どのシナリオでも堂島が死ぬのは、つまるところ、穂村神社を焼いたことによる。
 あれによって神社に祀られていた墓守の本体である絵馬が燃えてしまい、取り憑いていた藍を本体にするしかなくなったのだ。
 ただ、松倉家が『魔ツ蔵』であるということを肝心の両親が知っていたかどうかが判らない。
 何しろ、画面上に1回も姿を見せないのだから。
 そもそも墓守が、自分を封じる役を担う『魔ツ蔵』の家の娘に、わざわざ取り憑いたということがナンセンスなのだ。
 獣が出現するのは、あくまで自分の本体からの反射光が当たるあの廃屋であって、藍に限定しなくてもあの家を訪れる人間くらいいそうなものだ。
 その点がやや説明不足だった。
  
(松倉明日菜シナリオ)評価:B
 ある日、文乃と明日菜が川で丸石を拾うのに付き合った正士は、明日菜と共に、文乃を手伝って穂村山山中の井戸と神社について調べ始めた。
 山の中の神社はどうやらヤマノカミを祀る物だったらしいが、学校の図書館では資料がないため、正士と明日菜はヤマノカミについて原稿を書いている宗介の書斎で資料を漁るようになる。
 そして、人に何かを乗り移らせる儀式について調べ上げた頃、明日菜がいなくなってしまう。
 その裏には、堂島と八車親子の暗躍があった。
 正士は明日菜を救うため、儀式を邪魔することにしたが…。
 
 オドを呼び出す儀式の側から見た物語だ。
 オドを呼び出すために必要な儀式の条件などを必死に調べる文乃と、それを手伝う正士と藍。
 特に、文乃のためと言うより藍と一緒にいるためにヤマノカミのことを調べるようになっていく正士の描写は、本編中最高のデキだろう。
 この点については、変なイタさもなくてなかなかいい感じだ。
 正士が必要以上に無力感に苛まれないのも、評価できる。
 ただ、破瓜の血と精液を手に入れるためとは言え、気絶させた正士にいきなり跨っている文乃という急展開と、ラストの明日菜とのHには付いて行けなかった。
 
 
(八車文乃シナリオ)評価:B
 正士は、文乃と共にヤマノカミの秘密を調べているうちに、文乃が父斉臥を憎んでいるわけを知った。
 文乃の母清美は、斉臥の出世作『もだえる女』のモデルとして、斉臥に虐め殺されたというのだ。
 文乃は、母の死の真相を暴くため、斉臥が出入りしている穂村山の山頂近くにあるもう1つの穂村神社と洞窟、井戸の謎を解こうとしていた。
 そして、遂に母の復活の儀式が行われる…。
 
 他のシナリオでは、常に正体不明の怪しい女という役回りだった文乃がヒロインのシナリオ。
 キャラの立場上、明日菜シナリオの裏側という形になっている。
 評価したいのは、文乃がこのシナリオでも物わかりが良くて可愛い存在にならなかったことだ。
 人の話を聞いているのかいないのか、常に一拍置きながら受け答えし、全てを知っていながら必要以上には情報を与えてくれない謎の人だった文乃は、実は大したことを知らないだけだった。
 情報を出し惜しみしている風を装いながら、実は自分自身も情報を調べている最中。
 それをおくびにも出さないということが彼女の強さであり、そうすることで周囲が勘違いするのを利用して、自分のペースで動いている。
 明日菜に全てを話したら、もう興味を失って手伝ってくれなくなるけれど、正士なら文乃自身に興味を持ち続けてくれるから心を許すことができるというのが、文乃の本心だった。
 つまり、文乃は“自分自身を無条件で認めてくれる”相手を欲していたのだ。
 ところが、明日菜の命を犠牲にして蘇らせた母は「自分を殺したのは文乃だ」と言い、更に文乃が八車夫妻の娘ではなく、17年程前、雨音の両親が生贄用にさらってきた子供だと聞かされた文乃は、アイデンティティ崩壊の危機に瀕する。
 それを救ったのが正士の変わらぬ態度だったことによって、この物語は成立している。
 正士にだけ見せる照れたような顔、飾らない顔などがこのシナリオでだけ描かれるのもプラスポイントだ。
 一段高い場所から正士を見ているくせに、そこから降りてきてくれる姿には、普通の“可愛い”ではない“可愛さ”を感じる。
 だが文乃が、自分の目的のために明日菜を殺そうとしていたということから、目をそらしてはならない。
 彼女は、自分の目的のためなら明日菜を殺すことを厭わなかったのだ。
 運良く明日菜は助かったけれど、こんな文乃が幸せになっていいものだろうか?
  
 
 このゲームは、基本的に同じ時間軸上で展開している物語を、正士の視点をどこに置き、正士がどう行動するかによって見える物語が変わるという形になっている。
 従って、本来ならばあるシナリオで語られていない部分を、他のヒロインのシナリオで語るという、相互補完の形で謎が解明されるべきところだ。
 ところが、全てのシナリオを見ても解明できない謎がいくつもあるのだ。
 例えば悠夏シナリオでは、正士が夢の中で見たやり方で、山の中の神社へと辿り着く。
 また明日菜のシナリオでも、儀式についての重要なヒントは、正士が1日分の気力・体力と引き替えに見た夢の中で語られる。
 そして文乃シナリオでは、正士は斉臥から「お前自身は何もできないくせに、お前がいるだけで事態が進まなくなる」と言われている。
 思うに、正士には何か特殊な力の設定があるのに、それが何らかの理由でお蔵入りしてしまったんじゃないだろうか。
 その断片だけが生き残ってしまって、未消化な謎を作ってしまったんだと思う。
 
 そして、そんな程度では済まない大問題がある。
 それは、各シナリオに整合性が取れていないということだ。
 どのシナリオでも起きるイベントというのがいくつかあるが、それが他のシナリオ展開と矛盾することがあるのだ。

 このゲームでは
  ・学校と生徒を守るため、堂島のオモチャになる英里子先生
  ・堂島にオモチャにされる雨音
  ・穂村神社への堂島の嫌がらせと放火、辻夫の入院
  ・斉臥に猫を殺され、家出する藍
  ・秋に行方不明になる明日菜

という共通イベントがある。

 文乃以外のシナリオでは、各ヒロインのシナリオで、そのヒロインだけが救われる展開になっている。
 ところが。
 文乃と明日菜のシナリオ以外では、宗介の書斎には入れない。
 つまり、オドの儀式に関する知識は、この2つのシナリオ以外では文乃も知らないはずなのだ。
 それなのに、悠夏のシナリオで文乃は『破瓜の血と精液』を欲しがっている。
 ということは、文乃は儀式について調べ上げているということだ。
 確かに猫屋敷の蔵にも資料はあるが、あれについては他のシナリオでも見ることができるはずなので、あれでは足りないか、あそこには文乃は入れないかのどちらかであり、宗介の書斎でヤマノカミの資料を漁ったとしか思えない。
 じゃあ、こっそり忍び込んだのか?
 確かに文乃の鍵開けのテクニックなら、正士の家の鍵など簡単に開けられるが、正士の留守中に忍び込みまくっていたのだろうか。
 また文乃シナリオでは、鍵の掛かっていた宗介の机の引き出しは、明日菜シナリオでは鍵が掛かっていない。
 どちらのシナリオでも、正士がヤマノカミに興味津々なわけだから、明日菜シナリオでだけ鍵が掛かってるのはおかしくないか?
 それとも宗介は、文乃と仲良くしている正士を見て、「文乃にだけは見せちゃならん」とわざわざ厳重にしていたのだろうか。
 いずれにしても、不自然極まりない。
 また上記のとおり、いずれの場合も明日菜は秋から行方不明になるのだが、明日菜を使ってのオドの復活の儀式は、雨音シナリオや藍シナリオでは、『破瓜の血と精液』がないため、実行不可能なのだ。
 一応代用品である『月経の血』は手に入るが、それでは復活は一時的なものになってしまう。
 あの文乃がそんな不完全な儀式を行うのか。
 彼女にとって、あの儀式は母を復活させる重要なものだ。
 万全を期して望むはずなのに、代用品などを使うだろうか。
 同様に、斉臥を立ち会わせいで儀式を行うのだろうか。
 どうにもこの点が納得いかない。

 他にも、海へ行くイベントで悠夏シナリオの時だけ鈍行では泳ぐ時間がなくなったり、帰りに昼飯を食べる場所がなかったりと、その時だけの設定の変更が多い。
 同じ海岸に行ったという大前提がある以上、これはおかしいのだ。

 こういう細かいが結構重要な点でいくつも矛盾が発生しているのが、このゲームのストーリー完成度をDにした理由だ。
 鷹羽はこういうのがもの凄く嫌いなんで、ちょっと辛目の評価ではあるのだが。

 あと、細かいことなんだけど、藍の言葉遣い。
 墓守が取り憑いている藍は、「よ」を濁った発音の「ょ」と発音する。
 藍シナリオのラストでは、墓守が藍から去っていったため、「よ」と普通に発音するようになるのだけど、実は墓守が取り憑いている最中の藍も、時々「よ」と発音することがある。
 藍シナリオのラストでも、墓守が「よ」ときっちり発音したりしている。
 それも、夏の海の帰りの時の「わかってるよ…仕事の方が大事なんだょ」の時は、同じ文章の中だから、「その時だけ解放された」というような言い訳は効かない。
 単なる誤植だとは思うが、重要な設定なんだから大事にして貰いたい。

 あ、あと、単純にキャラクター的な好みのことだから、評価には反映させてないけど、鷹羽は悠夏が大っ嫌いだ
 悠夏シナリオで文乃が指摘するとおり、自分では何もせずに周りの人間が何とかしてくれるのを待っているだけだ。
 悠夏以外のシナリオで、秋以降に神社に行くと、堂島の嫌がらせに疲れ切った悠夏に噛みつかれる。
 まあ、夜も眠れずにイライラしているんだから仕方がない反応とも言えなくはないが、アレの理由の大半は、“正士が自分を選んでくれずに他の女の子と仲良くしている”&“正士が自分を助けるために必死になってくれない”という、甚だ自分勝手な理由からなのだ。
 やっぱ気に入らない。

 それから、この物語オチが付いてないんだけど、どうしよう?
 雨音の父が言うとおり、ヤマノカミに生贄を捧げなければ、死人が出ることになる。
 雨音の父が失踪して数年、恐らくは斉臥が何らかの生贄を叩っ込んでいたんだろうと思うが、今後はどうなる?
 安住町になってしまっても、誰かが生贄を捧げるのだろうか?
 捧げないと、ヤマノカミは村を全滅させるそうだし、実際、隣村は全滅させられているんだが…。


(総論)
 1つ1つのシナリオは、決して悪くない。
 文章力も相当なもので、綺麗に読ませてくれる。
 それなのに鷹羽の評価が低いのは、中途半端さがあちこちで見受けられるからだ。
 このゲームには上記の欠点の他にも、いくつか問題がある。
 シナリオ上ではなく、構成上の問題だ。

 筆頭は、エキスパートクリアだろう。
 このゲームは、初期状態のしおりで1度もバッドエンドを見ないまま5人ともクリアすると、5人目のEDは通常と違って、安曇学園が閉園されずに残るのだ。
 残ると言っても、名前が残って新築の学校になるので、英里子先生が守ろうとした旦那さんとの思い出の建物はなくなってしまうんだが。
 彼女が身体を売ってまで守ろうとしたモノは、名前が残るだけで満足できる程度だったんだろうか?

 まあそれはいいとして、5人を次々とクリアしていくと、既にハッピーエンドを迎えた娘は、その後ずっと閉園式に現れる。
 例え本編中で行方不明になろうが、人格崩壊しようが、必ず元気に閉園式に姿を見せるのだ。
 例えば、藍は藍自身のシナリオ以外では、墓守として第三界に戻らなければならないはずなのだが、ちゃっかりいるのだ。
 これってなんか変じゃない?

 また、このエキスパートクリアのことは、説明書は勿論、CDの中のデータでも触れられていない
 実際、鷹羽は人から聞くまで知らなかった。
 その時、既に雨音と悠夏のバッドエンドを見てしまっていた鷹羽はもうその資格を失っており、ショックのあまりやる気を失い、このゲームを一旦アンインストールしてしまった。
 後で実際にやってみたら、他のしおりでも既読スキップができることが判って、「消さなきゃ良かった」とか思ったんだけど。
 問題なのは、“説明書に書いてない”ということだ。
 知らなきゃやりようもない。
 ましてや、バッドエンドを見たらアウトってのはどうだろう?
 普通は、バッドエンドを見るのも覚悟の上でゲームするもんだろう。
 攻略記事見ながらやる人でもなければ、途中で何度もバッドエンドを見る者だろう。
 それが悪いことかのように、こんな条件付けられるのも腹が立つ話だ。
 いくら他のシナリオでスキップできるからって、そのためだけにわざわざ全員初めからやるんだよ?
 しかも、それでようやく出てきたおまけシナリオが、全員と付き合ってる呆れた世界『女達の憂鬱』『女達の決断』と“全員が生き残っている世界での後日談”というお粗末さ。
 だーかーらー、そもそも全員生き残るはずはないんだってば!
 まあ、ホームページのアドレスが出てきたのは良かったけど、そこから直接行けりゃもっと良かった。
 
 そんなわけで、鷹羽はこのゲームかなり嫌いです。
 最初にやったのが悠夏シナリオだったことも手伝って、当初鷹羽の機嫌が悪いこと悪いこと…。
 あの頃、夫婦喧嘩が頻発したのは、このゲームのせいだもんね。

 あ、でもED曲の『Nikoensis 〜追想〜』はいい曲だった。

(鷹羽飛鳥)


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