雨あがりの猫たちへ

 突然過去の世界に放り込まれてしまった3人。1週間後に起きる事故を未然に防いで元の時代に戻ることができるのか!?

1.メーカー名:HOOK
2.ジャンル:マルチシナリオADV
3.ストーリー完成度:D
4.H度:D
5.オススメ度:E
6.攻略難易度:D
7.その他:久しぶりに、延々と作業をさせられた気がする…。
 
(ストーリー)

 主人公A:智美椋(さとみ・りょう)と主人公B:加宮忍、栄根亜希は幼なじみ。
 かつて、一緒に遊んでいた亜希が倒れてしまったことから椋と忍は亜希の父に怒られ、以来亜希と疎遠になり、やがて3人は高校3年になった。
 この高校には、10年ほど前に事故で命を落とした2人の少女を悼む少女園記念日というものがある。
 ある日、少女園記念日の記念碑の写真を撮りに来た忍と椋に亜希が近付いたとき、3人は意識を失い、気が付くと3人は少女園記念日の元になる事故の1週間前にいた。
 しかも、周りの人間は3人がいるのを当たり前のようにしている。
 やがて、椋と忍は、この時代の同級生である大野ひとみと江藤星花が事故で死んだ少女であることを知り、2人を救おうと決意するが…。


 このゲームでは、亜希・ひとみ・星花に幸澄恵を加えた4人が攻略対象となり、ひとみと星花、亜希と澄恵が対になって2つのルートで進む。
 メインとなるのはひとみ&星花ルートであり、亜希&澄恵ルートでは、新しい展開と言えるものはほとんどない。
 ちなみに、今ルートと呼んだのは、椋をメーカーキャラクターに選んだ場合の話となる。
 というのは、このゲームはMRS(Movile Rail System)という主人公2人による相互リンク展開をするからだ。
 MAKER PLAYとKEEPER PLAY、そしてエンディング部の3部からなっており、まずMAKER椋の視点で最終日前日までいくとKEEPER忍の視点で物語が始まり、最終日前日までが語られた後、主に椋の視点でのエンディングとなる。
 そしてKEEPER忍では、MAKER椋で攻略対象になったヒロインのルートで進み、KEEPER忍ではそれ以外の3人を攻略対象として選べることになる。
 分かりやすく言うと、スーファミの『スーパーロボット大戦EX』で採用されていた各シナリオのリンクシステムのようなものだ…と言っても、やった人がどれくらいいるか分からないけど。
 展開する物語はほとんど一緒なので、評価を分けるほどのこともないから、一緒にやることにしよう。

 このゲームでは、椋が、少女園記念日の元になった死亡事故の1週間前にいるからにはそこになんらかの意味があるはずだと気付き、事故を防ぐことで元の時代に帰ろうとする。
 これが単純に歴史を変えるための云々という話にならなかったのは評価できる。
 元々10年前の世界にしては、周囲の人間が椋達を知っていたり、椋達が学校の外に出られなかったりと不思議な点があったのだが、それは実際の世界ではなかったからだった。
 ひとみは、恋に恋する状態で死んだため、自分が死んだことを理解できないまま記念碑の中で死の直前1週間を繰り返して過ごし、ひとみに恋をしていた星花は、ひとみの側にいるためにやはり成仏せずに過ごしていた。
 椋達3人は、ひとみの内面世界に紛れ込み、ひとみを成仏させる(ひとみ&星花ルート)、或いは星花に排除される(亜希&澄恵ルート)ことで現実世界に戻ってくるのだ。
 澄恵も、数年前に同じようにひとみの世界に飲み込まれた人間なのだが、少女園記念日絡みだと分かっていないことや現実世界に戻りたくない理由があって、やはり数年間にわたって1週間を繰り返していたらしい。
 困ったことに、椋達が飲み込まれた理由についてははっきりした答えが与えられないまま終わるのだが、鷹羽の印象から想像すると、恐らく、事故が起きたのと同じ日同じ時間に記念碑の近くに、恋に関する未練を持つ者がいると、ひとみの未練と同調してしまって飲み込まれるのではないだろうか。
 椋達の場合、亜希が椋達に対して持っていた気持ち、つまり“幼いころに寝込んだ後で疎遠になってしまい、今更昔のように名前で呼べない”という想いからだと思われる。
 澄恵の場合は、忍の兄に対して恋心を持っていたようだから、そういう想いを抱きながら記念碑の辺りを歩いていたのではないだろうか。

 ひとみの作った世界では、恐らくひとみがよく知っている人間と、紛れ込んだ人間以外は、キャラクター性が希薄になる。
 それは、ひとみにとって重要でない部分は再現されないからだろう。
 そして、紛れ込んだ人間が強く意識している部分も再現されるらしい。
 椋達が学校の外に出られなかったのに、亜希が小屋の場所を思い出した途端、そこには行けたのも、強く意識しているかどうかの違いだったのだろう。
 こう考えると、ひとみの恋敵とも言える飛鳥川友梨(あすかわ・ゆり)が妙に存在感が強いのも理解できる。
 椋がひとみと結ばれるルートのときに友梨が世話を焼いているのも、ひとみの椋に対する好意が反映されているのかもしれない。
 椋がひとみに事故のことを伝えた途端に周囲の空気が椋達に対して悪意を持つようになるのも、世界の創造主たるひとみの潜在意識が影響していると見て間違いないだろう。
 だが、四方田奈津先生が自我を強く持っているのは謎だ。
 四方田先生は、ひとみにとって大した重要人物ではない。
 恐らく椋達がこの精神世界との接点を持てるようにとの配慮なのだろうが、残念ながらひとみと四方田の関連が希薄なため、便利キャラに終始しているのが残念だ。
 それから、友梨や四方田のHシーンも、ひとみが意識しているわけもなく、違和感がつきまとう。
 特に友梨の場合は浮気Hなわけだから、ひとみがそんなことを考えているはずはないのだ。

 ともかく、このゲームでは、情報量が少なすぎて実態を把握するのが難しい。
 椋達が紛れ込むまで、澄恵が新聞部室で寝泊まりしていたらしいことは、一晩目に澄恵が『もう椋達が帰ったかな?』と様子を見に来ているらしいことで分かるのだが、そのことがはっきり語られることはない。
 これだけなら“そこはかとない状況描写”で済むのだが、亜希が探していた小屋に何の意味があったのかとか、澄恵が1人で紛れ込んでしまったのがいつでどうしてだったのかなど未解決の謎も多い。
 もしかしたら、シナリオ側ではちゃんと考えていて、それを表現するのが下手だっただけなのかもしれないが、ともすると情報を与えられないというより、設定そのものをよく考えていないような気すらしてくる。
 ひとみと星花が死んだ事故は、数日間続いた雨による土砂崩れだったらしいが、ゲーム開始時点からエンディングころに至るまで、椋達がその事故の内容を知らないという描写が続いており、しかも事故が起きる前の世界である以上は調べる手段すらないにもかかわらず、ひとみ&星花ルートでは、『起こるはずの土砂崩れは起きなかった』などという椋のモノローグが流れる。
 椋達がそれについて何の知識も持ち合わせていないことについては明言されているから、“澄恵が知っていた”以外の解決法はないのだが、澄恵も少女園記念日については存在しか知らないという描写があるのだ。
 では、精神世界を出る直前のこのモノローグはどういうことなのか?
 こういった不徹底も評価を下げるのに一役買っている。

 もう1つの大きな欠点は、澄恵がエンディングにきちんと登場しないことだ。
 澄恵は、ひとみと星花が成仏したエンディングでは、間違いなく元の世界に戻っている。
 多分精神世界に飲み込まれたその時間に戻ったのだろうが、その後の澄恵と椋達についてはほとんど語られない。
 忍と澄江が結ばれたエンディング後の場合のエピローグで椋達が街を歩いているときに、現在(成長後)の澄江がすれ違いざまに『ありがとう、先輩…』と語りかけて「あれ、今何か聞こえたような…」で終わっている。
 現代に帰ってきた後なら、澄江を探し出すことはさほど難しいことではない。
 忍の兄を先輩と呼んでいたのだから、兄の1〜2学年下の生徒名簿から名前を探し出せばいいのだ。
 それをしないのは、忍が澄江にもう1度会いたいとは思っていないからなのだろう。

 そう、このゲームの問題点の1つとして、忍がその場の勢いや同情だけでHすることが多いことが挙げられる。
 ひとみとのHは勢い+劣情、澄江とは同情という具合で、“Hシーンとエンディング数のためにやりました”という感覚が拭えない。

 久しぶりにハズレを引いた気がする…。


(総評)  さて、このゲームはシナリオ的な欠点以外にシステム面でも問題点が多い。
 1つは、その構造だ。
 このゲームのエンディングは、大きく分けてひとみ&星花ルートで椋がひとみとHする場合、星花とHする場合の2つと、亜希&澄江ルートで亜希とH、澄江とHの2つの合計4つだ。
 だが、そのそれぞれで忍が椋の相手以外の3人とそれぞれHするルートに枝分かれしており、結果として12のルートが存在する。
 だが、結局のところほとんど同じ展開であり、端的に言うとHシーンを除けばエンディングは2つでしかない。

 このように水増しされたルートでは、全てテキストが別物として扱われており、全く同じ(にしか見えない)Hシーンに至るまで、全て既読スキップがきかない。
 はっきり言ってストレス以外の何者でもなかった。
 更に、上記のエンディングを全て見ると、忍の側でMAKER PLAYできるのだが、これがKEEPER PLAYのときとほとんど同じで、涼でのKEEPER PLAYはなくエンディングに入り、しかもエンディングは椋の主観の文章のままだったりする。
 ふざけんな。

 かくして、鷹羽が今年やったゲームのワースト1の座は決定した。

(鷹羽飛鳥)

 
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