AIR 
   俺は、空を見上げる。
 その向こうに何があるのか知りたくて…
 少女は、空を見上げる。
 もう一人の自分が、そこにいるのかを確かめるために…
 
 
1.メーカー名:KEY
2.ジャンル:ADV
3.ストーリー完成度:個々で見るならA、総合的にはB。この点については後述。
4.H度:E
5.オススメ度:B
6.攻略難易度:C
7.その他:今回もアレンジCDがいい仕事してる!
 
 
(ストーリー)
 主人公・国崎往人は、とある田舎町でバスを降りる羽目になった。
 理由は簡単だ。
 金が完全に底をついたからだ。
 泊まる場所も、食事もままならない往人に、突如笑いかけてくる少女がいた。
「一緒にあそぼう」
 暑い…暑い夏の物語が始まろうとしている。
 
 
 スゴい作品だ。
 正直「KANON」でキャラ萌えしていた人には、相当にツラい作品だと言わざるをえない。
 決してベタベタなハッピーエンドにはならないし、何よりストーリーが難解だ。
 実際俺っち自身、最初に解いた時、全然意味が分からなくてちょっと困惑してしまっていたのだ。
 そこで、俺っちは既にこの作品を終わらせていた鷹羽飛鳥氏と、色々議論してついにある結論に達した。
 もう一回やってみよう、と。
 そうでなけれな、この深いテーマを持った作品を評論するのは、あまりに失礼だと感じられたからだ。
 
 と、いう訳で「AIR」である。
 毎回、シナリオで高い評価を得ているKEYのコト、そのテーマ・着眼点はさすがと言うべきだ。
 KEY独自のちょっと変な性格の主人公で、前半をギャグ風味に仕上げつつ、シリアスな後半にもっていく手法はあいかわらず上手い。
 
 それと、もはやKEY作品には欠かせない要素となった素晴らしいBGMは、今回もしっかり健在。
 とりあえず、この作品のイメージにぴったりと沿ったボーカル曲三曲と、「夏影」「双星」が今回のお気に入り。
 特に「夏影」は出色の出来だ。
 ただちょっと難を言うと、意外と耳に残る曲が少ないんだよね、今回は。
 前作の「KANON」なんかは、ほぼ全曲憶えられたものだけど、今回はどうにもそういう曲が少ない。
 飽きがきたのか、それとも別の要因か…ちょっと何とも言えないけどね
 
 それでは、ここからは各シナリオごとに見ていこう。
 
DREAM
・霧島佳乃シナリオ
 多分、一番最初にたどり着きやすいと思われるシナリオ。
 個人的には、一番まとまりのあるシナリオだと思う。
 まず、それ程難しい伏線や謎かけがなかった点が評価高い。
 この作品全体のシナリオというのは本当に難解で、全てを把握するだけでも苦労する、本当に深いものだ。
 しかしこの佳乃シナリオは、神社のご神体である「輝く羽」という多少の謎をばらまくものの、途中までの聖の真理描写を絡めたシナリオ展開と、最後に行人の法力が消失してしまうという分かりやすい結末を迎えるため、非常に入り込みやすい話だと言える。
 だからこそ、一番フラグ立てが簡単になっているのかもしれない。
 そして佳乃という存在を語るのに忘れてはならないのが、右手首に巻いたバンダナと、それが解ける時に解放されるという「魔法」だろう。
 彼女があのバンダナをつける事になった原因である、「輝く羽」に触れてしまう事件、そして時々様子がおかしくなる佳乃とを結びつける小道具として、非常に効果的に作用していると思う。
 こういう理解に苦しまない程度の伏線を張りつつ、後半の急展開にもっていく自然さは秀逸といってよい。
 
 ところで、このシナリオ最大の謎「輝く羽」とは一体、何だったのだろう?
 不思議な力を秘めたこの羽は【SUMMER】で出てくる翼人のものに間違いはないと思われる。
 しかし、【SUMMER】はどう考えても平安時代だし、佳乃シナリオの白穂の回想シーンで出てくる「外国からの襲撃」はどう考えたって元寇だ(鷹羽氏、資料thanks!)。
 最後の翼人、神奈が封じられた後の時代に、「輝く羽」が地上に降ってきたというのは、いささか不可解だ。
 また、白穂八雲が「輝く羽」を拾った後に、いかにも翼人の仕業という感じで「神風」が起きるのも、どうかと思う。
 神風が起こった直後に拾ったというのなら話はわかるんだけど、それでも矛盾してる。
 ただ、元寇(と思われる戦)が終わったあと、羽を「穢れた物」として役人が探しに来るのは興味深い。
 普通に考えれば【SUMMER】でのラストで、翼人の記録は歴史から全て抹消された事になっている。
 しかし、この元寇当時の政治を何処が司っていたか考えてみよう。
 歴史の教科書を開けば簡単にわかる事だが、それは鎌倉幕府だ。
 東方の板東武者…【SUMMER】で、翼人の力を利用しようとした者達…が発祥の。
 そう考えれば当時の為政者たちが、災いをなすと遙か昔に言われていた翼人の事を知っていても、おかしくはない訳だ。
 
 なんだかんだ言ってもこの佳乃シナリオは、単体で見た場合、結構気に入っている。
 ただ、後々出てくる【SUMMER】【AIR】の事を総合的にひっくるめて佳乃シナリオを考えると、ちょっと首を傾げたくなるのが残念だよ。
 
・遠野美凪シナリオ(美凪ノーマルエンド)
 3ヒロインの中で唯一ルートが分岐しているのが、この美凪ルートだ。
 このシナリオは、結構後半の方になるまでみちると往人のどつき漫才と美凪とのちょっとずれた会話とお米券という印象が強く、悪く言うとちょっと退屈してしまうレベルでの冗長さがつきまとう。
 もちろん、シナリオ展開の技量では定評のあるKEYの事、きちんと伏線も張ってあるし、それはそれ意味ある会話として成立しているのだが…それでも、無駄に長すぎる印象は拭えない。
 だが後半の、往人が美凪の母が「みちる」と美凪を呼ぶ場面を目撃するところからこの話は急展開し、非常に面白く、怒涛の様にスムーズなシナリオとなる。
 そして、最後の選択肢を「目覚めのキス〜」を選ぶ事で、このノーマルエンドシナリオに流れる。
 このシナリオの秀逸な点は、やはり美凪が自分を「みちる」と偽って苦悩し、また自分の母親の元に帰るあと一歩の勇気を振り絞る事が出来なかった、悲痛な慟哭とそれを告白するシーンだろう。
 この時ばかりは、普段おっとりとワンテンポ置いて喋る美凪が、普通の喋り方で往人に激白している。
 すなわち。
 これこそが、あるいは遠野美凪という少女の本当の姿だったのだろう。
 自分を偽る事に疲れ、結局みちるも母も救う事は叶わず、目の前にいる往人にすがる事しか出来なくなるまで追いつめられた脆く儚い少女が、彼女の本当の姿だったのだろう。
 そして、本当は弱々しい少女に過ぎない彼女を認めた上で…彼女の言うことを全て肯定した上で、受け入れた往人。
 最後に駆け落ちする二人は、後の【SUMMER】以降のシナリオをやれば分かる事だが、恐らく先祖から受け継がれてきた使命を全うする事は叶うまい。
 彼らの間に子孫が仮にもうけられたとしても、使命がその子らに受け継がれるとも限らないだろう。
 しかし、往人の母が彼自身に赦した「使命を放棄し、小さな幸せを掴む」を、彼自身は望まなかったにしろ手に入れた形になったのは、非常にこのシナリオの興味深い点として俺っちは気に入っている。
 だが、それには「みちるの想い」という、とんでもない代価が払われていた訳だが……
 
・みちるシナリオ(美凪トゥルーエンド)
 これは美凪ルートからのもう一つの派生で、扱われ方としては美凪のトゥルーエンドとなっている。
 しかし、最後の選択肢を「明日まで待ってくれ」と選ぶ事により入るこのルートは、実際には本来生まれてくる事が出来なかったはずの、おぼろげで儚い少女「みちる」に、ぬくもりを伝えるためのシナリオだ。
 それ程までに、このシナリオでのみちるの存在は群を抜いている
 本来ならサブヒロインのはずの彼女が、メインヒロインの美凪を完全に食ってしまっているのは問題ありの様な気もするが、良くも悪くも美凪とみちるは切っても切れない関係であるという事を、まざまざと見せつけた点は秀逸と言える。
 だから、みちるを「切って」しまう、ノーマルエンドルートはエンディングテーマの流れないバッドエンドの様な扱いを受けているのだ。
 このシナリオ、俺っちも涙こらえながらやっていたけど、最後の美凪の母と夕食を囲むシーンで、とうとう我慢出来ずKO!
 そして、ラストの屋上での美凪との背中越しの会話は、感動シーンのオンパレードのこの作品中でも屈指の名場面だと、俺っちは思う。
KANON』の真琴の時といい、こういうのに弱いな、俺っち(笑)。
 
 だが解せないのは、みちるがどうやって、この世界に姿を現せたのかだ。
 どうもニュアンスからすると、本来この世界に生まれてくる事の出来なかったみちるが、空にいる少女の力を借りて、かりそめの姿を与えられていたというイメージだ。
 ちょっと無理矢理な解釈かもしれないが、【SUMMER】で出てくる八百比丘尼は、戦でなくなった者達の怨念を吸収する呪がある事で自らを「穢れた」存在だと言った。
 そして、その呪は翼人・神奈にも継承されてしまう。
 こう考えると、神奈を空に縛り付けている封印は解けていないのかもしれないが、死んだ者の思いを吸収できるというのなら、みちるの思いが、彼女に届いた可能性は否定できない。
 だけどこの話って、佳乃シナリオで出てきた御神体「輝く羽」を絡ませれば、もっと分かりやすかったんじゃないかなあ……
 
 ただ、エンディングはややしっくり来ない感じも受ける。
 最後にみちるに「空にいる少女」を助けて欲しいと頼まれた往人は、結局いくら本人が知らない事とはいえ、「空にいる少女」と密接に関わりのある少女・観鈴の前を素通りし、また旅に出てしまうのだから。
 まあ、ここらへんは観鈴のシナリオ及び、それに連動する【SUMMER】【AIR】シナリオを見ないと分からないんだけどね。
 
・神尾観鈴シナリオ
 はっきり言うとこの「AIR」という作品は、大部分が彼女のシナリオだと言っていいぐらいで、この【DREAM】部分単体での彼女のシナリオの評価というのは、非常に難しい。
 言い方を替えれば、この【DREAM】での観鈴シナリオというのは一種の伏線張りのためのものであり、それが故に、非常に中途半端な形で終わってしまう。
 往人と出会ってから見る様になったという夢、他人と親密になろうとすると起こしてしまう癇癪、観鈴のヘンなクセの数々、母親・晴子の性格…etc。
 全てが後に開く【SUMMER】【AIR】の伏線となっている。
 正直、ここまでが序章に過ぎないと言っていい展開にはビックリだ。
 そして、相変わらずKEY的主人公していた国崎往人が主人公なのも、実はこのシナリオまでなのである
 
SUMMER
 このシナリオはこの話の根幹になる部分、約1000年前に封じられた最後の翼人・神奈を描く物語である。
 実際のトコロかなり長い話なのだが、選択肢がないデジコミである上、次々とストーリーに引き込まれる展開の上手さなどが手伝って、非常にスムーズなプレイが出来て安心して見ていられた。
 さらに際だっていたのが、サブキャラである、神奈の側近・裏葉(うらは)の存在だろう。
 ……っていうか、もはや脇役とは呼べないよな、コイツは。
 いつも飄々として笑顔をたやさない彼女が、孤独と寂しさに疲れていた神奈に、どれだけの安らぎを与えた事か。
 確かに、このシナリオの主人公・柳也の力と機転がなければ、神奈は母である八百比丘尼に逢う事すら叶わなかっただろうが、それ以上に裏葉が彼女を、また柳也を支えてくれなければ、彼らの決死の逃避行など到底不可能だったろう。
 
 しかし、全ての始まりを見せるシナリオだけに、語り尽くされていない部分があると、少々気になってしまうのも事実だ。
 まず柳也が晩年に書いた書物「翼人伝」が、作中一回も出てこないのは、かなり謎だ。
 結局、彼が最後の死力を振り絞ってしたためたものは何だったのだろう?
 彼は、世の為政者達が翼人の記録の抹消を行っているのを知っていたからこそ、これを記したのではなかったのか?
 それとも、裏葉との間にもうけた子供に使命を伝えるためだけに、一年に及ぶ編纂の必要な書物を編集したというのか? それはちょっと無理があるだろう。
 ただ、千年前の書物が残るというのは物理的に不可能だし、ここら辺はわざとなのかもしれないが、それならば往人の家系に代々伝わる口伝みたいな設定で、このシナリオ以外のところで出て欲しかったものだ。
 また過去のお話という事で、てっきり佳乃シナリオに出てきた白穂が出てくると思ったのに、少し肩すかしを食らったのも事実だ。
 確かに神奈と白穂の生きた時代はまるで違うが、せめて何らしかのアプローチが【SUMMER】で欲しいと思ったのは、俺っちだけかな?
 結局そういう素地が全然ないから、佳乃や美凪のシナリオが完全独立型としてメインストーリーに全く関わらない、言い方を替えると、ちょっと間抜けな展開になってしまっている。
 結局のトコロ【SUMMER】で語りたかったのが、観鈴が夢の中で見る「空にいる少女=神奈」の記憶だというのはよく分かるが、全ての起点となるこのシナリオで、佳乃シナリオの白穂・美凪シナリオのみちるについて若干でも触れておけば、より完成度が高まったのではないかと考えると、少々残念だ。
 
 ただ、これはウチのライター鷹羽飛鳥氏に聞いてちょっとビックリしてしまったのだが、あそこで使われている元号や、その年に金剛峯寺が落雷にあって炎上したというのは、本当に史実にあった事なのだそうで、よくもまあそこまでこだわって設定切ったなあと感心したよ。
 また、台詞などに昔の言い回しを多用するなど良い雰囲気作りを心がけているのも、このシナリオのプラスポイントだ。
 総じてこの【SUMMER】は色々な点で出来が良く、ちょっと長すぎる感のあった【DREAM】各シナリオのあとに、実にバランス良く組み込まれた良作である。
 
AIR
 最終章であるこのシナリオは大きく分けて二部構成となるが、主人公がいきなりカラスだったりして、開始早々いきなりドギモを抜かれる。
 実はこのカラスの主人公・そらは、最初の【DREAM】の観鈴シナリオを前のプレイの結果通りに、第三視点として見る立場にある。
 ところが【DREAM】では、そらは一回も登場してこない。
 にも関わらず【AIR】で出てくるそらは、色々な人間からちゃんと認識されており、まかり間違っても幻の類ではない様だ。
 ここら辺は矛盾点として挙げてもいい点だが、あるいは【DREAM】と【AIR】はパラレル上にある…というよりはそうなった世界なのかもしれない。
 完全にネタバレになってしまうが、そらは【DREAM】の主人公・国崎往人が観鈴シナリオで力つきた後の姿だ。
 観鈴を救うため最後の力を振り絞り、最後に笑顔の満ちあふれた彼女の側にいたいという往人の執念が、彼の時間を逆行させカラスへと憑依・あるいは転生させた様だ。
 考えてみれば無茶苦茶な話だが、それが彼が元来持っていた「法力」による力だったのだろう。
 少なくとも佳乃シナリオの段階で、彼の「法力」が人形を動かす力だけでないのは証明されている。
 往人の最期の「法力」が、結果的にパラレルワールドを一つ形成させたと解釈するしかないだろう。
 少し「この世の果てで恋を唄う少女YU-NO」に通ずる世界観だが、「AIR」の場合その概念をゲーム内に組み込んでいる訳ではなく、結局推測でしかものを言えないのが少々残念ではある。
 そらの存在をパラレルワールドと捉えないなら、本当に話が矛盾してしまうからなあ。
 
 しかし、このそらの視点を利用する事で、【DREAM】での行人の視点では語られなかった部分がフォローされる部分は、非常に面白い。
 特に、この【AIR】シナリオ後半部分のメインキャラと言っていい神尾晴子の、隠された部分が垣間見られるのは実にいい。
 ただ、このシナリオの前半は結局【DREAM】での観鈴シナリオを追って再認識するためのものなので、これと言って見所があるものでもない。
 
 スゴいのは、やはり後半のシナリオだ。
 結局、往人の最期の力を以てしても、わずかに延命したに過ぎない観鈴。
 その観鈴と、本当の母子たろうと必死の努力をする晴子の姿を徹底的に描いたこのシナリオは、下手な理屈抜きで本当に感動モノだ。
 この、あくまでもテーマにこだわった作品作りをおおいに評価したい。
 特に、最後の「ゴール!」のシーンと、その時に流れる挿入歌「青空」は、俺っち的には今までやった全てのインタラクティブの中で…そう、Hゲームどころかゲームという枠を取り払ってすら…最高の演出だったと思っている。
 とにかくヒロインである観鈴、そして、あるいはこの作品の真の主人公ではないかとすら思われる晴子の優しさ・強さは、本当に胸を打たれた。
 悲運の少女・神奈が望んだ母親のぬくもりや優しさを、彼女の転生である観鈴に与えた晴子は、また自身も成長をとげ、最後のシーンでは、生き甲斐を見つけた誇らしげな顔を見せてくれる。
 でもそれならば、往人は結局何だったのだろう?
 結局、彼は何もできなかった無力な道化に過ぎなかったのだろうか?
 いや、恐らくそうではあるまい。
 ここからは、俺っち自身の勝手な解釈だが、彼が空にいる少女に出来る事は二つある。
 一つは、やはり自分が犠牲になり、観鈴に時間を与えてあげた点だ
 その期間はわずか十日ちょっとだが、晴子と観鈴にとっては、まさにかけがえのない時間だったに違いない。
 そう、今までの十年間に匹敵するほんの十数日のぬくもりと幸せな記憶を、神奈の転生である観鈴に与える事が出来た。
 そしてもう一つ、そらとして見てきた観鈴の幸せを…ぬくもりを、空にいる少女…神奈に伝える役目だ。
 晴子は事情を全く知らない人間だが、エンディング直前でそらを後押しする。
「アンタは飛ばな、アカン」
 そして、そらには…往人には翼があるのだから。
 神奈に施された、空に封じられる呪が解けているのかいないのかは、実際のトコロ分からずじまいだが、少なくともまだ彼女が「空」にいるのは確かな様だ。
 そして、そこで悲しい夢を見続けている事も。
 だから、伝えなければならない。
 そらが見た全てを、ぬくもりを、幸せを……
 もう悪夢は終わりを告げてもいいのだ、と
 伝えなければならない。
 そしてその役目を担えるのは、観鈴でも、晴子でもない。
 そら=往人なのだ。
 翼を持っているのは、彼しかいないのだから……
 
 そして、エンディングでの神奈が地上に降臨していると思われるCG、そして最後の小さな女の子を見るに、呪は全て解かれたのだろう。
 最後に、恐らく八百比丘尼であろう意識体が観鈴の幸せな記憶を星に還す事で、ようやく柳也と裏葉の願いも成就され、神奈もこれからは正常な輪廻の中へと入る事が出来るだろう。
「想い」を携えたそらは、無事「空」まで届いたのだ。
 俺っちは、そう想う。
 
 
(総評)
 往人があくまでも主人公だと考えると、どうにもツラい話の様な気もするが、物語として見るなら、本当に良くできている。
 転生モノというと、どうにも陳腐な印象が拭えないジャンルだが、ここまで徹底的なシナリオ展開をしてもらえれば、流石に文句も出ない。
 ただ、どうしようもない問題点として、やはり佳乃と美凪のシナリオが完全にオマケと化しているのは頂けない。
 しかも、これから先がある様なそぶりを見せて何もなく、結局、作品全体が観鈴オンリーの物語となっているのは興ざめだ。
 これでは、ヒロインを三人に設定した意味がまるでないではないか。
 こういう点を踏まえて、ストーリー完成度の全体をあえてBとしたが、それでも素晴らしい作品には違いない。
 個人的には、話がやはり難解な点を考慮して「KANON」を越えるには一歩及ばずかなという気がするが、それでも勝るとも劣らない傑作だと思う。
 何というのだろうか……前作「KANON」が、おとぎ話や童話の様な雰囲気であったのに対し、今回の「AIR」は本当に“小説”とかの、一種の文学的な要素の強い作品だったと思うのだ。
 そう考えれば、主人公・国崎往人にとって完全なハッピーエンドにならないのも頷ける。
 だって小説だったら、そんなの珍しくとも何ともないもんね。
 とは言え、俺っちの今までやったHゲームの中では、トップレベルのストーリー完成度なのは間違いなし。
 次回作も、よろしく頼みまっせ〜!
 
 あと最後に。
 鷹羽飛鳥氏が言っていた事なんだけど、世間では往人が柳也、晴子が裏葉の転生ではないかという説があるそうな。
 確かに、あのちょっとトボけた性格の柳也と往人の性格は似ていると言えなくもないし、晴子と裏葉の想いの強さも、お互いにオマージュ的な存在と言えなくもない。
 ただそれを判断するには、確定的な要素に乏しいのも事実だ。
 こういうトコロは、わざわざシナリオライターさんは狙っている様で、ここらへんは相変わらずKEYらしいなあ、と俺っちは苦笑しているトコロですな。
 
 
(梨瀬成)

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